Target4:傍観少女
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あたしの席は廊下側の一番後ろだから、態々前の出入り口から入る事はまず無い。毎回後ろの出入り口を利用する。あたしは基本、朝練終了後にあたしだけ先に着替えて、部日誌を榊先生に提出してから教室に上がる。つまり、一人で。時たま宍戸やジローちゃん、がっくんに途中で追いついて一緒に上がる事もあるが、大体一人だった。そしてそれは、今日も。
「おはよう、唯ちゃん。」
「あ、琹ちゃん朝練お疲れ様!」
前の席でノートに何やら書き込んでいる唯ちゃんに声をかけるとにこやかに挨拶をしてくれた。今日はノート提出の日だっただろうか。やけに真剣に書いていたが。
「今日なんかノート提出する授業あったっけ?」
「んー?あ、これ?これ、友達宛に手紙書いてただけだよ。授業中に回すヤツ。」
彼女はそう言ってノートをパタンと閉じた。そうだ、彼女はあたしと違って女の子の友達が沢山居る。昼食も他の友達と一緒に食べるから、とあたしと一緒に食べたことは無い。あたしは相変わらず一人で食べるか宍戸達と食べるかだった。
「あ、そうだ!じゃーん!これ琹ちゃんにプレゼント!」
「え?あたし誕生日じゃないよ?」
「知ってるよ!いつもマネージャー頑張ってる琹ちゃんにプレゼントです!」
少し落ち込むあたしを励ますように唯ちゃんが可愛らしい包みをあたしの方に差し出す。何でも無い日にプレゼントなんて、彼女はなんていい子なんだろう。何となく自分が惨めだった。
「開けてもいい?」
どうぞ、とにっこりと笑う彼女に甘えて、黄色いサテンリボンを解く。それ程長さの無いリボンを丁寧に畳んだ。中には小さな箱が入っている。取り出して見ると、サイズの割に少し重さがあった。
「……香水?」
「そうそう。昨日ね、帰りに寄り道したら可愛い小瓶に目を奪われちゃって!これはもう琹ちゃんにプレゼントしなきゃ!って。……それにね、ほらテニス部の人達って香水の香り苦手なんだって。不自然に避けるより、向こうから避けてもらう方が琹ちゃん的にも良いかなって。」
後半の方は小声だったが、とても魅力的な話だった。立海に行った時に実感してしまった男女の力の差。今迄彼等の手を振り払えられたのは、彼等が手加減してくれていたからに他ならない。実際、運動部でも特に身体を鍛えていた訳でもない昌山の手は振り払えられなかったのだから。
だったら唯ちゃんの言う通り、向こうから避けてくれる方が確実だし、何より心も痛まない。唯ちゃんが何処からそんな情報を仕入れているのかは分からないが、彼女の提案はとてもありがたかった。
ただ問題は、あたしがあまり香水とか香りの強い物が得意ではない事だ。人より少しだけ鼻が効くからだろうか。薬局のコスメ売り場や、車の芳香剤、序でに言うなら榊先生のポマードの匂いだって出来るだけ避けたい。でも。
「ありがとう!今度他校と合同で練習とかあったら使ってみるね!」
うんうん、と満足そうに頷く唯ちゃんにあたしも笑顔を返す。彼女の気持ちが何より嬉しかった。香水だってつける箇所を考えれば問題無いかもしれない。
「あ、そうだ。今日も放課後部活あるんでしょう?試してみてよ!」
だから彼女のこの言葉にも何の抵抗も無く、頷いた。