Target4:傍観少女
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コート入口のすぐ横、一応扉を開ける時に邪魔にならないように気をつけて壁に背を預けた。いつもは部室のプロジェクタールームで忍足を待つが、今日は何だか外に居たくて、コートまで足を運んだ。ここなら直ぐに見つけてもらえるだろう。
空は既に茜色に染まっていて、なんとなくあたしの思考を後ろ向きにする。
お昼の事はちゃんと跡部と榊先生に伝えた。榊先生としては入部届が出されてしまえば顧問として拒否は出来ないから、判断は部員に任せるという事だった。
「まだかなぁ。」
当たり前のように彼らと着替えの時間はずらされる。あたしは皆がコートの片付けをしている間に着替えてしまうから忍足が着替え終わるのを待たなければいけない。まぁ、別に待っていなくても所詮は一緒に帰る目的が達成されないだけで何の支障もないのだけど。
この忍足を待っている時間と一緒に下校する時間を比べたなら、確実に下校する時間の方が長いはずなのに。それでも誰かを待っている時間と言うのはとても長く感じるものだ。つい、そんなつもりは無いのに唯ちゃんの事について考えてしまう。
あんなにいい子なのに。昌山に代わる、心の拠り所の筈なのに。どうしても彼等に触れる唯ちゃんを想像すると嫉妬が胸を焦がすのだ。けれどなまじ彼女がいい子なものだから、強く触れないで、と言う事が出来なかった。
「あれ?」
ぼーっとコートを眺めていると誰かのラケットが置きっぱなしになっているのに気がついた。側にはボールも二つ転がっている。もしかしたらネットを片付ける時に忘れられたのかもしれない。特に意味も無くそのラケットを拾い上げる。えーっと確か。
「置いたラケットを上から握るのがウエスタングリップの握り方……だっけ。」
そのまま左手でボールも拾って、ラケットの上に来るように軽く投げる。ボールはぽーんとバウンドして再度空中に戻っていった。だが、ラケットにボールが当たった瞬間に感じた感触は硬かったから、どうやらスイートスポットは外したようだ。もう一度重力に倣って落ちてきたボールをラケットで受け止める。今度は柔らかい感触がした。多分スイートスポットに入ったんだろう。もう一度、もう一度。ぽーんと予想外の所へ跳ねるボールを追ってあっちこっちへふらふらと動く。
こういうのをなんと言うのだったか。あぁ、そうだ。
「ラケッティング、ヘッタクソだな。」
揶揄うような笑い声が聞こえる。これは確認するでもなくがっくんの声だ。放られたボールは彼の足元に落ちた。
「これ意外と難しいね。」
彼の足元に屈みボールを拾い上げる。彼がここに居るという事は、忍足も直に来るだろう。あたしの密かな練習タイムはここで終わりだ。
「貸してみろよ。っと、ほらこうやんだよ……っ!」
がっくんはあたしの手の甲を覆うように掌を重ねてラケットを奪い、左手に持ち替えた。そして落ちていたもう一つの方のボールを放り投げる。それはぽーんと軽快に真上に跳ねた。
ぽーんぽーんとリズム良く、ボールは何度も同じ場所に落ちていく。とても簡単そうに。先程ラケッティングが意外と難しい事を体感した身としては、それがどれだけ凄い事なのかはっきりと分かっていた。それが簡単そうに見える程、彼の動きには無駄が無いのだろう。
「マジマジ、すっげー!」
「何でジローなんだよ。」
「いや、なんかつい。でも本当、がっくん凄いね。」
笑って彼を見ると、今迄リズミカルに跳ねていたボールはコロコロと地面を転がっていた。その顔は夕日に負けず劣らず、真っ赤だ。彼はあたしの直球な褒めに弱い。
「べ、つに普通だろ。こんなん。」
がっくんはラケットを観客席とコートを隔てる塀に立て掛けて近くにボールを転がす。あたしも彼の真似をして、手に持ったままだったボールを転がした。
彼はマネージャーが増える事をどう思っているんだろうか。