Target4:傍観少女
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移動教室の際に、A組の教室の前を通った。教室内に跡部を見かけて、先程の唯ちゃんの事を聞く為に声をかけようかとも思ったが、跡部を呼ぶ前に廊下側の席に座っている女子と目が合って一瞬躊躇う。多分彼女としては、特に意味もなく来客に目をやっただけなんだろう。だけど、唯ちゃんの話を聞いてすぐのあたしには、その視線が品定めをしているように思えてしまって。
マネージャー業を手抜きした覚えはない。けれど、自主練習をする部員を残して先に帰るし、スコア表で特定の部員を贔屓もした。清廉潔白なマネージャーとは言い難い。だからだろうか、その、品定めのような視線に怯んでしまう。
「琹さん。」
後で部活の時にでも話そうと踵を返す為に右足を少し下げた時、あたしを呼び止める声がした。声の主を確認するために顔を向けると、其処には普段まずここで見ることの無いちょたの姿。彼はあたしの姿を認めて、廊下側に座っている女子に声をかけた。
「すみません、跡部さんを呼んで頂けませんか?」
彼女は特に大きなリアクションをするでもなく、跡部に声をかけた。良かった、彼女はただ普通の跡部のクラスメイトだ。
ほっと胸を撫で下ろしたあたしの心境を知ってか知らずか、ちょたがあたしの隣で呼び出された跡部と会話をする。内容は……あぁ、生徒会で跡部が不在の時の練習についてか。
特に聞いて不味い内容ではないから、大人しく二人の会話が終わるのを待った。ちらりと視線だけでA組の教壇の上にかけられている時計で時間を確認すると、後四、五分で移動教室の目的地を目指さないと間に合わないだろう。
「で?琹は何の用だ。あーん?」
「え?あぁ、二人の話終わったんだ。」
「すみません、俺から話してしまって。」
しょぼんとしながらも立ち去らない辺り、ちょたの話はまだ終わっていないのかもしれない。それならあたしの用件はさっさと切り上げてしまおう。
「跡部にちょっと錫木唯ちゃんについて聞きたかったんだ。何か知ってることない?」
「錫木唯?あぁ、お前のクラスメイトのか。」
跡部は少し考える素ぶりを見せる。今更ながら一学年八クラスもある学校の全校生徒の名前を覚えているのって、中々凄い事じゃなかろうか。
「何を知りてぇんだ?」
「例えば、彼女が転校生で前の学校でいじめられてなかったか……とか?」
「調べてやってもいいがアイツは転校生じゃねぇぞ。」
「え、そうなの?」
じゃあ、あの表情は何で……。
少し思案して、ハッと顔を上げる。視線を向けた先はちょただった。あたしがテニス部以外の人と仲良くなろうとしている、それは彼にとってあまり嬉しくない筈だ。案の定、彼の眉間には皺が寄っていて眉尻は下がっていた。それでも彼があたしに文句を言う事は無い。
「ちょた、あのね。」
弁解をしようと口を開くと、タイミング悪く予鈴が鳴る。あぁ、もう!あたしは廊下を走り出した。急がないと授業に遅れてしまう。
数メートル進んで一度立ち止まって振り返る。ちょたはまだ其処に居た。
「心配しなくてもちょたのこと大好きだからね!!」
あぁ、もう授業には間に合わないかもしれない。