Target1:氷帝学園男子テニス部
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初めて汐原さんに会った時、どちらかと言うと苦手だなと、そう思った。
不意に呼んだ跡部さんの名も、存在だけでも知っといてとおどけて見せたその笑みも俺にとっては猜疑心を煽るものでしかなかった。
けれど、その日跡部さんから受けた連絡に、それは同情に塗り替えられていく。彼女は、独りぼっちなのだ、と。
事実、ショッピングモールで名乗ってもいない俺と日吉の名前を言い当てた事を指摘すると、彼女はしまったという顔をした。
きっと、異世界から来たことも俺たちの事を知っている事も、彼女は秘密にしておきたかったのだ。……俺たちに嫌われない為に。この世界で独りぼっちにならない為に。
跡部さんが言っていた。
初めて会った時の汐原さんの表情。驚愕、無心、落胆……そして喜色。
そこから想像するに、恐らく汐原さんは俺たちに避けられるのを恐れているのではないか、と。
それに加えて忍足さんも。
「俺の大事な親友候補、いじめんといてな。」
ショッピングモールでの邂逅の数日後、マネージャーだと紹介された汐原さんが去った後、そう俺達に言った忍足さんは戯けていながらも何処か吹っ切れたような表情をしていた。
それからだ。
日吉が汐原さんに興味を持つのも、跡部さんが汐原さんを気にかけていることも、汐原さんが忍足さんに矢鱈と絡みに行くのも。全てが嫌で、堪らない。
何でそんな風に思うのかなんて分からなくて、ただただもどかしい気持ちを押し込んだ。
でも、気づいてしまった。
日吉や跡部さん、忍足さんの気持ちと……俺の気持ちを。
皆、汐原さんの何かしらに惹かれているんだ、と。
日吉はきっと汐原さんの"異世界人"という部分、忍足さんは忍足さんの台詞からきっと"親友候補"である部分。跡部さんは予想が付かないけれど、きっと俺は、俺の場合は。
汐原さんの"独りぼっち"である、部分。興味、期待、同情。皆が皆、それぞれの感情でもって汐原さんに惹かれている。
それはまだ、恋愛といった感情ではないけれど。
"汐原さんのことは信じてみようと思います"
いつぞやに宣言したその言葉は無意識のものだった。出会って二日目。判断する材料なんて一つも無かったはずなのに、無意識に彼女を認めようとする自分がいた。
「……琹さん。」
監督からの呼び出しに早歩きで廊下を進んでいる時、ちらりと見えた彼女の横顔。女子生徒と話しているその顔はどう判断していいのか分からない程、無表情だった。まるで初日の、宍戸さんへ手を差し伸べた時のように。
それすらも俺の心に響いて、思わず彼女の名を口にする。下の名前で呼んだのは初めてだった。クラスの比較的親しい女の子にもこんなことはしない。
宍戸さんですら苗字で呼んでいるのに、琹さんの名は違和感なく俺の心に溶け込んでいった。
不思議な人。
初めて会った時から、色々と思いは変わったけれど、その印象だけは変わらない。
それは暖かいような擽ったいような、そんな不思議なものだった。