Target4:傍観少女
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ごほんと態とらしい咳払いが聞こえる。
聞こえた方向へと視線を向けると、いつぞやに忍足の事を聞いてきた女の子。名前は、えーっと……そう、錫木唯と言っただろうか。
「朝からラブラブだね、琹ちゃん。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃう。」
「え?!あ、ごめんね、そんなつもりは無かったんだけど。」
あたしの目を見つめながらはにかんでいた宍戸もその言葉には焦ったように距離を取り、小さく悪りぃと謝って自分の席に着いた。その謝罪は誰に対するものだ、と一瞬考えたが、そもそも此方から触れてくれと言ったのだ、あたしに謝る必要は無い。錫木さんに対しての謝罪だろう。
「んーん、いいよ。でも羨ましいなー!琹ちゃん。」
「何が?」
「宍戸くんとラブラブで!あれ?でも今朝跡部くんとも……?」
あたしは自分の席が彼女の真後ろである以上、宍戸のように逃げる訳にもいかない。仕方なく自身の席に着いて彼女の話に付き合う事にする。
というか、錫木さんはどうしてこんなに馴れ馴れしいんだ。今まで会話をした事なんて、あたしが勝手に忍足の事を躱したあの時だけだと言うのに。それから体育の授業で二人組を作れという場面で、一度だけ組んだ事はあるが、関わりなんてプリントを回してくれる程度のものだ。名前を呼ばれるような関係にはなっていないはず。ましてや、そんな恋愛相談するような関係になんて。
「どっちとも付き合ってないよ。……ただ、二人とも好きなだけ。」
何て言われるだろうか。阿婆擦れ、ビッチ、エトセトラ。何と言われようが構わなかった。自分の思考は異常だ。だけどあたしの心境をシンプルにそして正確に表現するのは、その一言しかないのだ。
みんな好き。みんな欲しい。
あたしの言葉に錫木さんは顔を顰めなかった。逆に楽しげに、嬉しげに笑みを浮かべる。
(どうして。)
普通気持ち悪いでしょう。関わりたくないと思うでしょう。こんな歪んだ、異常な考え。
なのに目の前の彼女は、その考えが正常だと、当たり前だと言わんばかりに大きく頷く。それから楽しそうに声を上げた。
「琹ちゃん、テニス部の事大好きだもんね!」
あぁ、どうしよう。見つけてしまった。あたしの、心の、拠り所。
「うん……うん。大好き。」
あたしの汚い心を理解してくれる人。
昌山に会えなくなってぽかりと空いた胸の穴を埋めてくれそうなのは、今の所彼女だけだ。
そう、あたしは忘れていた。彼女が忍足に恋をしている事を。
「ねぇ、唯ちゃんって呼んでもいい?」
いいよ、と笑った彼女に釣られて、あたしも笑った。