Target4:傍観少女
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やっとだ、と歓喜したのは学年が一つ上がって一週間程経ってからだった。
中学生に上がってすぐ、少しオタク気質のあった友達と話を合わせる為に読んだ作品に心底ハマった。テニスの王子様。魅力的なキャラクターに、派手な試合演出。何より、これだけ魅力的なキャラクターが登場していながら誰にも恋人が居ない所が魅力だった。
もしも私が彼等の側に居たなら、私が恋人になれるのでは、と考えられる作風が大好きだった。そして私は散々妄想を繰り広げて、夢小説と言うものに行き着く。
それはもう、理想という言葉では足りないくらい、私の探していた物だった。決して出会う事の無い彼等に愛してもらえる。彼等に触れられる。
創作だと分かっていてものめり込まずにはいられない。トリップ、逆ハー、嫌われ、最強、男装。色々なジャンルの夢小説を読み漁ったが、私は傍観夢が好き。
だって傍観夢の主人公は目立たない子が多くて、感情移入がしやすかったから。ただ遠くから眺めているだけで愛してもらえる。なんて素敵なの。
だから私は、願ったのだ。織姫と彦星に。
とある七夕の日。ちょうど近所で行われていた夏祭りに、私をテニスの王子様にはめ込んだ友達と共に出かけた。それはとても小さなローカルな祭りで、町内会長を筆頭に綿飴やかき氷など単価の低い屋台が二、三出ているだけの祭り。そんな白けた祭りが賑わう筈もなく、私のように親に言われて渋々来ているか、いつもより遅くまで遊ぶ為の言い訳として小学校低学年くらいの子供が来ているだけだ。
「ねぇ、あれ書いとこうよ。」
そう言って友達が指で示す先にあった、申し訳程度の笹。その近くには色とりどりの半分に切ってある折り紙が置いてあった。
「短冊に書くような願い事なんてあるの?」
「別に無いけど、いいじゃん。雰囲気、雰囲気。」
無理やりに背中を押す彼女に逆らえず、迷いに迷って書いた願い事。
「"テニスの王子様の世界で、みんなから愛されますように。"ねー……。いい感じに患ってるね。」
「とか、言いながらそっちだって似たようなこと書いてるじゃない。」
「黒歴史上等。」
そう言って笑った彼女と笹に短冊をぶら下げて、気がついたらこの世界に居た。氷帝学園三年C組、廊下側の後ろから二番目。それが私の居場所。
同じクラスに宍戸亮と芥川慈郎が居るのはとても都合が良かった。亮は女子に気さくに話しかけてくれそうだし、慈郎はお菓子とかで簡単に釣れそうだから。後足りないのは、そう。
傍観する、逆ハー狙いの女子。ただ、それだけが足りなかった。
けれど今は。
「宍戸もしたかったらしていいんだよ。……キス。」
その声の持ち主は、私が此処に来てから一年と一週間程経ってから転校してきた女子の物。そして、彼女のこの台詞のすぐ後に小さくリップ音が聞こえた。思わず口角が上がる。
これでやっと、私の舞台は整った。