Target3:立海大付属中男子テニス部
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「一人で帰るなんて駄目。昌山が一緒じゃなきゃ。」
強引に手を引く俺と、そんな俺を呼び止める真田と切原を見比べて汐原はそんな事を言う。一緒に帰るのも、俺一人で帰るのも嫌だと。
コイツこんなに我儘だったか?確かに多少無遠慮で、人よりは我儘な面もあったが、こんなに聞き分けの悪い奴じゃなかった。取り敢えずダメ元で駄々を捏ねはするが、俺が折れないと分かると直ぐに切り替えて俺の提案に乗るようなヤツだった。なのに今は足を踏ん張って、少しでも屋上へ辿り着くのを遅くするように耐えている。あぁ、俺の制服の裾引きずってんじゃねぇか。
「汐原、そんな我儘通るわけないだろ。」
俺か、コイツらか。選べるのは二つに一つだ。
俺だって折角仲良くなった仁王や丸井との別れは惜しい。そして、汐原との別れも、惜しい。
俺があの時、この世界に来た時に紙飛行機に書いた願い事はただ一つ。汐原と同じ、とそれだけだった。だからきっと、この世界は汐原の望む世界なんだろう。仁王と丸井には見覚えがあったから、恐らく漫画か何かの世界。汐原がもし、そんな創作の世界に行きたいと願う程、元の世界に愛想を尽かしているのならここに残りたいと言うのにもよく分かる。だが、俺は別にそこまで元の世界を嘆いてはいない。
俺達が生きていた、そして生きていくべき世界はあちらの世界だ。だから、戻らなくては。
「分かってる、昌山も跡部達も、両方なんて都合が良すぎるくらい。でも昌山が居ない世界も跡部達が居ない世界も、どっちも嫌なの!!」
どれだけ諭しても、汐原の主張は変わらない。初めてだ。こんな事。
真田と切原の視線が痛い。徐々に他の部活中の奴らの視線と集まってくる。テニス部以外にも、サッカー部野球部、エトセトラ。グラウンドを使っているヤツらが、汐原の大声になんだなんだと寄ってくる。側から見れば、先輩にいびられる一年生男子だろう。まずい、これ以上騒ぎが広がると先生が呼ばれるかもしれない。汐原が他校生である事はバレてはいけない。
「お願い、昌山。ここに、残って。」
先程まで俺が強引に引いていた腕は、今は逆に汐原に縋り付くように絡め取られていた。声も、震えていてか細い。まるで女の子みたいだ。
汐原を女の子だと思った事は無い。それは別に男扱いをしてきたとか、そんな事ではなくて。男だとか女だとか、そんな事を考えた事が無かったのだ。ただの親友。だけど今、切実だと全身で訴える汐原は、どこからどう見ても女の子で、思わず分かったと了承してしまいそうになる。それでは駄目だ。俺の為にも、そして汐原の為にも。
「それは、出来ねぇよ。」
お前は好きにしたらいい、ともう汐原の顔は見れなかった。
俺が頑なに折れない事に汐原の堪忍袋の緒が切れたんだろう。縋り付いていた俺の腕を乱暴に振り払われた。そして大きな声で罵声を浴びせられる。
「じゃあ一人で帰ったら!!?あたしは絶対帰んないから!!」
ヒステリックに声を荒げて汐原は校門の方へ駆けて行く。琹さん!と切原の引き止める声が聞こえたが、アイツに届いたかは分からない。
そんな事言われても、お前一人残して行くなんて出来るわけないだろ。
思い通りにいかない現実に、だぁーっと声を上げて頭をかき混ぜた。