Target2:転生少女
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「大石先輩、菊丸先輩。」
こっちです、と食堂に入ってくる二人を認めて声を上げる。昼間の事が有ったから仕方ないのだけど、刺さる視線が痛くて、少しでも早く二人と合流したかった。
私に気がついたのか、大石が軽く手を上げて近づいてくる。既に食事を用意して席に着いていた私の前の席の椅子を引いた。それに菊丸が続く。
「にゃんか、水羽ちゃんと一緒にご飯なんて初めて?」
にゃはは、と笑う彼に悪気は無いんだろう。けれど私としてはそうですね、と曖昧に濁す事しか出来なかった。
今まで誘われなかったし、誘わなかったから。無意識に彼等と線を引いていたのは私の方だったのだろう。時には強引に私の意思を押し付けても良いのだと、そうは思っても、それはすぐには実践出来そうになかった。
「英二、先に食事を取ってこよう。」
「そだね!」
一度立ち去った二人にほっと胸を撫で下ろす。良かった。卑屈めいた言葉を吐く前に一度深呼吸する。私ももう、いい加減変わらなければ。
ことん、と私の前の席に大石が食事の乗ったトレイを置き、その右隣に菊丸が座る。
緊張で震える唇で私は声をかけた。
「美味しそう、ですね。秀一郎先輩、英二先輩。」
視線を持ち上げて、ぎごちなく笑みを作る。小さくカチカチと奥歯が震え、いただきますと合わせた手の指先が震えた。
嫌がられたら、拒絶されたらどうしよう、と。
それでも、今までこちらが勝手に引いていた線を越える方法なんて、私にはこれしか思いつかなかったのだ。
二人は少し驚いたように顔を見合わせる。ぱちくりと瞬きをする仕草でさえもシンクロしていた。
「そうだね、美味しそうだ。」
「冷める前に早く食べないとね、里ちゃん!」
視線を私の方へ向けて口角を上げる彼等に、今度は別の意味で唇が震えた。
大浴場での琹の言葉を思い出す。
案外簡単なんだなって、そう言って破顔した琹は正しかった。実際に、案外簡単だったから。ただちょっと、勇気が必要だっただけで。
「いただきます……っ!」
歓喜に震える指先もじわりと滲む視界も、二人から隠すように声を上げた。二人もそれに続く。近くで聞こえる、桜乃ちゃんや琹とは違う声。ずっと近くで聞きたかった声。
箸先で米を掬って口に含む。昨日も、今日もずっと同じ米だった筈なのに、形容し難い程、それはとても美味しかった。