Target1:氷帝学園男子テニス部
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一人になったあたしは再度机に伏す。それとほぼ同時に聞き慣れない声があたしの
「汐原さん、ちょっといい?」
聞こえているのに無視をするのは無礼だろうと、顔を上げる。視界に入った女の子はおどおどと戸惑いの表情を浮かべていた。可愛い。
あたしは何と声を掛けて良いのか分からないまま、女の子の言葉を待っていると、意を決したように女の子は口を開いた。
「あのね!私汐原さんと話してみたいと思ってて!……でも、汐原さんいつもテニス部の人達と一緒だったから……。」
話し掛け辛くて、と続ける彼女の言葉に、転入してからの日々を思い出してみる。それ程までにテニス部の面々にべったりだったか、と考えて忍足の事だと思い立った。行きも帰りも、部活中も。家が隣同士なのもあり、確かによく行動を共にしていた気がする。ただ、教室に着いてからは、転入して二、三日間昼食を宍戸と芥川と共にしたくらいで今日までは殆ど一人だったと思うのだけれど。
彼女の言葉に少し引っかかりを覚えつつも、友達が出来るかもと嬉しさを感じて、素直に笑みを浮かべる。
「そうなんだ、ごめんね。……話し掛けてくれてありがとう。」
その言葉に彼女は複雑そうな顔をしていた。
その顔は酷く印象的で、数日前の忍足と同じような顔。忍足に親友になると宣言した時と同じ表情を浮かべていた。
「……ううん、私の方こそありがとう。」
あたしは彼女の言葉に何も言えなかった。忍足の時には、彼の心情を察して気の利いた台詞の一つでも探していたのに。どうにも彼女にはその気が起こらなかった。
それはきっと、先程まで宍戸が座っていた、あたしの前の席に腰を下ろした彼女が話す内容が、忍足の事を知りたいと全面に押し出しているからだろう。
あたしと話してみたい、というのはつまり。"忍足の側に居るあたし"の話が聞きたい、とそういう事だったようだ。成る程、忍足の事を聞きたいのなら、あたしが忍足と行動を共にしている時には話し掛けられないよなぁ。一人で納得して、それから勝手に落胆した。
この子は、悪気があるのかないのか、それは分からないけれど、忍足への恋心の為にあたしを利用するつもりなのだ。それに気づいていても友達になれるだろうか、と考えるが無理だろうなと結論付けた。せめて、もう少し上手く忍足への恋心を隠してくれれば。
恋する乙女自体は可愛らしいと思うのだけれど、利用されるのはあまり気持ちの良いものではない。それに、忍足の個人情報を勝手に流すのも気が引ける。
忍足関係の話題には曖昧な返答を意識して、ただひたすらに中身のない会話を嗜んだ。もう少し、と口を開く彼女を授業開始の本鈴が遮る。
慌てて前に向き直る彼女の背中を見て思った。
もう二度と、彼女があたしに話しかけてくることは無いだろうな、と。
それ程までに、あたしからは忍足の情報は得られなかった筈だから。