Target2:転生少女
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琹に手を上げてしまった。
前回の人生を含めて考えてみても、人に暴力を振るったのは初めてだ。琹の頬はぱしん、と痛そうな音を立てた。琹を打った私の手も、痛かった。
そして、心も。
痛くて、痛くて。もう何も、考えたくない。
最悪だ、大勢の人がいる前であんな事を言うなんて。まるで子供みたいな。
一度八十年の人生を全うしたところで、今の身体は中学生のもの。心体はまだまだ未成熟で、どうにも感情のコントロールが出来ない。
気がつけばこの合宿中に自身に与えられた部屋に逃げ込み、ドアに背を預けてぺたりと座り込んだ。
「何で、どうして。」
今までずっと私の事を嫌っていたくせに。私が琹を嫌っている事にも気づいていたはずなのに。それなのに、あの子はこのままじゃいけないと言う。そんな事もうとっくに気がついていた。
でも、私が仲直りしよう、と言う前に勝手に消えたのは琹の方なのに。ずっとずっと、寂しい人生を強要してきたのは琹、なのに。
あぁ、そうか。前の人生で琹が行方をくらましてからぽかりと空いていた胸の穴。それは、あの子が居なくなった事による虚無感だったのだ。私は、あの子の事が、ずっと、大切だったのだ。どれだけ嫌っていても、どれだけ嫌われていても。私達は姉妹なのだ。
だから切原と喧嘩している琹を見たときは心配だったし、琹が行方不明になってからは虚無感を抱えて生きてきた。そんな事あの子は知ったこっちゃないのかもしれないけれど。
ピピピ、とポケットに入れたスマホが休憩終了の時刻を知らせる。
「……行かなきゃ。」
そう口にしても重い腰が持ち上がらない。部屋から出ないといけないと思えば思うほど、伏せたままの顔を上げる事が出来なかった。
今は合宿中だから、サボるわけにはいかないのに。何より、彼らに迷惑をかける訳にはいかない。
けれど伏せた顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
胸が痛くて、寂しくて、今までずっと無視してきたものが急に一気に込み上げてきて、溢れる。私にとって琹は、大切な妹で、誰より嫌いな人で、唯一私の境遇を理解してくれる人。憎くて、愛しくて。ぐるぐる、ぐるぐる、と、あぁ気持ち悪い。
それらが全て涙として流れていく。声を上げて泣き叫びたかった。
「……どうして、琹みたいにできないんだろう。」
あの子みたいに、笑顔に囲まれて生きたかった。それが無い物ねだりだなんて、とうの昔に気づいていたけれど。
それでも私は、琹みたいになりたかった。