Target2:転生少女
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「はい、どうぞ。」
そう言って先程桜乃ちゃんが運んでくれたウォータージャグからスポーツドリンクを注いだ紙コップを柳生に差し出す。ありがとうございます、と彼は素直に受け取った。
「あの、すみません。昨日の夕飯の時ですけど。」
何か用でもあったんですか、と口にして、彼が一瞬眉尻を下げたことに気がついた。その表情は、よく見る表情だ。困った顔。大石がよくする表情だった。こりゃ大変、と彼の口癖を添えて。
柳生は今し方試合を終えたところだからだろうか、滴る汗をタオルで拭い、粗方身嗜みを整えてから私に向き直る。
「特に用というわけではなかったのですが。不躾でしたね、すみませんでした。」
相変わらず眼鏡が反射して、彼の瞳は見えないけれど、何となく焦っているようにも思えた。タオルで汗を拭うその一瞬に、言い訳を考えているように見えて。昨日の柳生は柳生ではなかったのではないか、と気づいてしまった。
誰だっけ、作中で柳生と入れ替わっていた人が居たはず。銀髪の……あぁ、そうだ、仁王だ。
「いえ、特に用が無いならいいんです。」
あれが柳生でないのなら、これ以上彼に問いかけても意味はない。けれど仁王に聞いてみるのは面倒だった。彼は菊丸とは違うベクトルで気分屋だったような印象が残っている。気分屋を相手にする際は、高確率でこちらの胃がキリキリと締め上げられるということは、大石や柳生を見ていると痛い程に分かってしまっていた。
別に、無理にあの笑みの意味を解明しなくても、と迷宮入りにしてしまう事を決めて柳生から空になった紙コップを受け取る。マジックペンで"柳生"と書いた。少し柳の字が潰れてしまった。
「ありがとうございました。……それでは私は練習に戻ります。」
「頑張ってくださいね。」
ありきたりな答えを返して彼の背中を見送るが、そもそもコートに限りがある為、交代で試合をしているわけで。つい先程試合を終えた彼が再度コートに入るには早すぎる時間だった。
「どうして、琹みたいにできないのかな……。」
琹なら、自然に彼との話題を広げて楽しげに笑い声を上げるんだろう。きっと柳生も困ったような表情ではなくて、楽しげな表情を浮かべるんだろう。あの子みたいに、私もなりたかった。
じわり、と視界が滲む。流れ落ちさえしなかったけれど、こんな時に声をかけてくれる人すら、私には居ない。
私はウォータージャグの横のトレイに、柳生のコップを伏せ新しいコップを取った。ジャグからドリンクを注ぎ一気に煽る。"水羽"とコップに書き込んだ時、視界はもう、クリアだった。