Target2:転生少女
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ざわざわとコートの方が騒がしい。私は両手に持っていたストップウォッチから視線を外して、コートの方へ持っていった。タイム測定の対象者はもう暫くは目の前を通りそうにない。
果たして視線の先にあったのは、琹と、その彼女の胸倉を掴み上げる切原赤也の姿。意外だった。私は琹が他人と喧嘩をする所を見たことがない。口喧嘩も含めて。
いつだって琹はにこにこと笑いながら友人達に囲まれていたのに。誰から見ても止めるべきだと判断される状況にある琹を見るのは初めてだった。
だからだろうか、いつの間にかコートの周りを走り込んでいた部員達も傍観に徹して足を止めている。私も自分が止めに入ろうとは思えなかった。実の妹に対して見捨てるという選択をしたのだ。
非情。そうは思うけれど、いっそのことこの件で琹が浮いた存在になればいいと思っている。そうすればきっと、大石は近寄らないから。取られる心配もない。
「里ちゃん、大丈夫かい?」
「え?大石先輩、私は特に何もありませんけど……。」
真田に止められる二人を見ていると、背後から声を掛けられる。大石だった。
彼は心配そうに眉尻を下げるが、心配される理由が私には分からない。だって私は、喧嘩に巻き込まれている訳でも止めに入ろうとしている訳でもないのだから。
「あぁ、うん。なんだか里ちゃんが心配そうに汐原さんを見てたから。勘違いならいいんだ。」
「……心配、そうですか。」
「うん、とても心配そうだった。」
琹を心配する理由なんて、無い。
なのに何故か大石の言葉に思い当たる節があった。琹を掴み上げる切原に、やめてと叫びたくなる唇を必死で噛み締めている自覚はあった。
だから、止めに行かなかった。正しく言うなら止めに行けなかったのだ。走り出したら、叫びだしそうで。
「……心配なんて、してませんよ。する理由も無いですから。」
大石に言葉を返すと、彼は頬を掻いた。困ったようにハの字に下がる眉は、最早苦労性の彼のトレードマークになってしまっている。きっと今は、私も彼の胃痛の原因になっているのだろうけど。
誰が何と言おうと、私は琹の事が嫌いなのだ。
仲良くしようなんて、彼女を守ろうなんて。絶対に思わない。
大石に向けていた視線を、コートに戻す。既に切原の姿も、琹の姿もコートの中には無かった。それを見て私は声を上げる。
「……皆さん!早く走らないと、走る距離増えちゃいますよ!!」
こりゃ大変と呟く大石を含めた部員達が、その言葉に慌てて足を動かし始める。走り込みを再開したのは青学メンバーが殆どだった。このグループのリーダーは手塚だ。私の言葉が強ち間違いじゃ無いことを経験上知っているのだろう。
私も再度、ストップウォッチへ視線を戻した。