Target4:傍観少女
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月が変わっても、あたしは昌山に言われた事を考えていた。一緒にここに残る事は出来ない、と。
昌山は間違った事は言ってない。寧ろ我儘を言っているのはあたしの方だ。だけどやっぱり、あたしは跡部達も、昌山も、捨てられないのだ。
(どうして分かってくれないの。)
折角跡部にお願いしてまでスマホの契約をしてもらって入手した昌山の連絡先はあの日以降使っていない。もう元の世界に帰ってしまったのか、それとも意地を張っているだけなのか、昌山から連絡が来ることも無かった。勿論、彼の制服も返していない。真田の帽子だけは後日郵送した。
「琹ちゃん、何かあったん?」
「え?……あぁ、なんでもないよ。大丈夫。」
あたしの返事にそうなん、と悲しげに眉を下げる忍足と手を繋いで潜った校門。そして見つけた跡部の姿。
高級そうな車から現れるその姿は、相変わらず自信に溢れていて、あたしの弱気な考えを拭い去る。跡部はあたし達に気がつかなかったのか、そのまま校舎の方へと行ってしまった。
何となく跡部があたしの手の届かない所へ行ってしまうような気がして、今すぐ彼を追わないといけない気がして。あたしは繋いでいた手を解いて跡部の背中を追った。
目の前に跡部の背中がある。少し速度を上げれば触れられる。それだけであたしの胸中は喜色に染まった。そして人前だとか、そんな事を気にするでもなく、跡部、と声をかけて振り向いた彼を力の限り抱きしめる。跡部の胸板に顔を押し付けると、とくりとくりと彼の鼓動が聞こえた。
彼の体温も心地よい鼓動も、全部愛しい。もしかしたらあたしは、少し寂しかったのかもしれない。昌山に見捨てられてしまったようで。
「おはよう、景吾。」
その寂しさを誤魔化すように、態と普段は呼ばない名前で呼んではにかんで笑って見せると跡部も笑った。そして跡部はとても満足そうにあたしを眺める。
「今日は遅いじゃねーの、琹。」
チュッと軽いリップ音がして頬に軽い感触が残った。キスをしたのは言わずもがな跡部だ。ここは全校生徒が往来する場所だというのに。
その事に呆れて溜息を溢すと、あたしは調子に乗って跡部の首に腕を回し、仕返しとばかりに口付けた。彼との身長差を考えると中々キツい体制ではあったがなんとか届いたらしい。跡部も跡部であたしの腰を支えてくれる。
これであたしが自他共に認めるような美女だったらさぞかし絵になったのだろう。だけど、残念ながらあたしはそれ程目を引くような女では無い。釣り合わないと言われてしまえばそれまでの、そんな平凡な人間でしかない。
長い口付けの果てにやっと数センチほど離れた唇。至近距離で見つめているとその青い瞳に吸い込まれてしまいそうだ。お互いの吐息すら感じるこの距離で跡部のその唇が弧を描くのが分かる。
「愛してる、琹。」
跡部のその言葉は、とても狡い。
ぐるりぐるりと頭を支配して、何も考えられないようにしてしまうから。跡部がそう言ってくれるなら、もうどうでもいいやと思ってしまうから。
「あたしも……愛してるよ。」
跡部はもう一度あたしの唇に唇を重ねた。