Target3:立海大付属中男子テニス部
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テニスコートの脇、出来るだけ目立たない場所で腰を下ろす。多分この制服は昌山の物だから、少々汚すくらい良いだろう。仕返しだ。
校庭と校舎を区切るフェンスの根元に背を預けるようにして座り込むあたしの肩は弾んでいた。それ程の距離を走った訳ではないが、胸を潰すために身体を締め付けているからだろうか、いつもより息が切れるのが早かった。
「汐原……!」
呼ばれた声に、帽子のつばを少し持ち上げて顔を上に向ける。今度は怯える事も驚く事も無かった。先程も聞いた、ハリのある声。真田はフェンス越しにあたしの側に寄り、腕を組んで立っていた。
「もういいのか?」
「え?……あぁ、もう少し貸して。」
「そうか。」
真田はどうやらあたしが帽子を返しに来たと思ったらしい。それなら何故、彼はフェンスを越えてこちらに来ないのだろう。借りているのはあたしなのだから、こちらが返しに来いと言われても可笑しくないが、テニスコートに部外者が入る方が真田的には嫌だろう。彼なら自分で帽子を受け取りに来そうだ、とそこまで考えてあたしの座っている場所が日陰になっている事に気がついた。先程まで、影なんて申し訳程度にフェンスの網目模様が伸びていただけなのに。あぁ、そうか。
「真田、ありがとう。」
「大した事はしていないが。」
「それでも、ありがとう。」
真田がフェンスを越えない理由。それは多分、あたしを日陰に入れる為だろう。彼はあたしの返事を聞いて尚、その場を動こうとしなかったから。もしかしたら走る度に息を切らすあたしを、少々身体が弱い子だと思っているのかもしれない。立海生としては幸村の事がある以上、乱雑に扱う事が出来ないのだろう。
まぁ、そんな事は事実無根なのだけど。
「ねぇ、昌山来てる?」
「今日は見ていないな。」
そっか、と返すと真田はあたしに、というかフェンスに背中を向けて少し横にずれた。次いで、他部員の声がする。真田副部長、と少し生意気な声色で彼を呼ぶのは間違いなく赤也だろう。何か指示を貰いに来たのかもしれない、と真田の邪魔をしてしまっている事に申し訳なさが込み上げるが、赤也の用は真田の指示ではなかったようだった。
「昌山さんが琹さんを探してるんスけど……琹さん来てるんスか?」
本人が真田の背中越しに聞いているとも知らずに、ワクワクと期待に声を弾ませる所が可愛いらしい。先週も会ったのに、あたしに会いたいと声色だけでも分かる程だから赤也の表情にはありありと浮かんでいるんだろう。容易に想像出来てしまってクスクスと笑いが溢れる。それが赤也の耳にも入ったのか、おずおずと真田の背後を覗き込む赤也に、いとも簡単にバレてしまった。