Target3:立海大付属中男子テニス部
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隣の肩で息をする汐原を見やる。こいつの体力の無さはデータを取り直した方が良いかもしれない。
合同合宿初日の夕飯時に話し掛けたときに感じた印象は、少々気の強い女子といった程度で特筆すべき所は別に……あぁ、やたらと氷帝の一部の部員に好かれている点と体力が無い点くらいは特筆しても良いな。その程度でその他は一般的な女子と何ら変わりは無かった。だが、合宿の最終日に赤也の腕の中でポロポロと涙を流す汐原に此方も釣られて泣きそうになっていたのも事実だった。
汐原の表情に、仕草に、吸い寄せられる。そして、触れてしまえば。
「汐原、走るぞ。」
丸井や赤也のように拒絶されないように出来るだけ丁寧に汐原の手を取る。走る、と言いながらも汐原の体力から逆算すると、早歩き程度に留めておかなければ逆に時間がかかってしまうだろう。時折信号が変わるまでの時間を計算し、歩みを緩めて息を整える時間をやるがそれでも汐原には少々辛かったらしい。途切れる息で無理やり俺を呼び止めた。そして冒頭に戻るのである。
「すまない、汐原の体力から速度を計算したつもりだったが……。少し無理をさせたようだ。」
「それ、は大丈夫なんだけど……。」
汐原は俺の言葉に乾いた笑い声を溢した。あぁ、汐原の不満がこちらではないのなら。
「手を……。」
「「離してほしい。」とお前は言う。」
丁寧に汐原の手を取った所で、拒絶をされる確率は82%と高めだった。データ通りに拒絶された所で驚きはしない。しないが、何故か面白くはない。汐原が俺を拒絶する理由とは何だ。特段汐原に乱暴をした覚えも、嫌われるような事を言った覚えは無い。強いて言うならば、汐原の言葉に俺の言葉を重ねた際に少々不満気な表情を向けられるくらいか。
「理由を聞いてもいいだろうか。……少々時間が押している。歩きながらになるが。」
進行方向に視線を向けると、既に弦一郎達の姿は見えない。走った所で追いつけはしないだろう。精市の面会時間に間に合えばそれでいい。
俺は弦一郎達に追いつく事を放棄して汐原の言葉に耳を傾けた。
「氷帝の部員で、あたしが他の人と仲良くしてると嫌がる子がいるから。」
「……鳳か。」
確かに鳳が居る場所、コート内や食堂などでは拒絶の仕方が比較的露骨だったが、鳳が側に居なくても俺達を拒絶していた事実は変わらない。
「だが、鳳が見ていない場所でも拒絶している理由は何だ?」
深く突っ込んで聞くと、汐原は困ったように言葉を詰まらせた。暫く言葉を探して、嘘だと口にする。そしてゆっくりと口を開いて、確信に迫る言葉を落とす。
「氷帝があたしのモノだからかな。」
「ほぅ、興味深いな。」
「……こう見えて物持ちは良い方なんだよね。大切な人の嫌がる事はしたくないでしょ。」
無意識に余り開くことの無い瞼を持ち上げると、此方に向けられた汐原の視線とかち合う。とくり、と小さく心臓が跳ねた。
自慢気に口角を上げる汐原の表情が見ていられない。直ぐに持ち上げた瞼を下ろし、視界を最低限の物にする。唐突に汐原の側に寄りたくなって顔を汐原の耳元に寄せると、反比例して汐原が飛び退いた。けれど、繋いだままの手が距離を取ることは許さない。
あぁ、そうか。俺が汐原の物になれば、触れる事も許されるのか。こうして、繋いでおけば。
クスクスと口を吐いた笑い声に汐原が戸惑いを見せる。そろそろ急がなければ、面会時間を過ぎてしまいそうだ。
「汐原、走るぞ。」
計算も遠慮も気遣いも全て投げ出して、走り出した。不満気な汐原の声が心地良い。