Target1:氷帝学園男子テニス部
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「汐原琹は異世界から来たと言っているらしい。それに付随して、俺たちの事を知っているらしい。」
跡部さんから来たメッセージに抱いたのは、正直、は?とそれだけだった。そもそも汐原琹とは誰だったかさえ忘れていたに等しい俺は、必死に今日の出来事を朝から順に振り返る。放課後に差し当たった辺りで、あぁ、あの人か、と思い当たった。
何故か跡部さんの名前を知っていた、見たことのない制服の女。怪しさはあれど、跡部さんが色々な意味で有名なのは事実であり、女の言い分に疑問は抱かなかった。疑問を抱いたとすれば、その行動の方が不自然で。
例えば、下敷きにした宍戸さんをそのままに会話を続けたり、上履きのまま外へ出て行ったり。思い返せば返す程、非常識で不審なヤツといった評価にしかならないが。
そんな女が自分を異世界から来たと言い出したらしい。異世界なんて信じてない。信じていないが、もしも。
もしも本当にあの女が異世界から来た人間であるなら、色々気になるところはある。いや、もしかしたら人間ですらない可能性も……そう考えると、あの時もう少し色々と突っ込むべきだったか。その夜は少し寝つきが悪かった。
翌日、以前から約束していた通り鳳の買い物に付き合う。序でに自身の消耗品の残量を思い出しながら買い物を進めていくと、鳳が何かに気がついたように声を上げた。その視線を追うと、その先には昨日俺から睡眠時間を奪った張本人。汐原琹が居た。
呑気に買い物だろうか、小さめのショッピングバッグを二、三その腕に引っ掛けている。
「こんにちは、汐原さん。」
隣に居た鳳は、汐原さんの迷っていた様子に気づいていたのかいないのか、迷いなく声を掛ける。全くコイツには警戒心というものがない。跡部さんから俺と同じ内容の連絡が行っただろうに。
「こんにちは、鳳くん。……日吉くんと買い物?」
「はい!グリップとかガットとか、どうしても消耗しちゃうので……。それにしても、本当に俺たちの事知ってるんですね。」
鳳のその言葉に、和やかな会話が止まった。
目に見えて焦りを浮かべるこの人の表情から、もしかしたら、本当に、とそんな馬鹿げた考えが思い浮かぶ。あり得ない。
「……君たちは何を聞いているの?」
あり得ないとは思うが、この何処か怯えたような失望したような表情が演技だと思えなかった。
「異世界から来たと言っていると、それだけ。……跡部さん、自分は信じてみようと思うって言ってましたよ。」
俺は正直分かりません、と鳳が宣言する。おい、それは別に宣言しなくていいだろう。
「それが事実かは分かりませんけど汐原さんのことは信じてみようと思います。」
何を根拠にそんな事を言うのか。コイツはいつもお人好しすぎる。
鳳の言葉に汐原さんの表情が喜色に染まる。そのままこちらを見られると、まるで、俺から"信じる"といった言葉を催促されているみたいだ。だが。俺にはそんな事はどうでもいい。
「俺は別に信じるとか信じないとかどうでもいいですが、異世界人には興味があります。」
昨日削った睡眠時間はこれ以上の結論を出すには、どうにも足りなかったらしい。ありがとう、と笑う顔に不思議とこちらも満足していた。