Target3:立海大付属中男子テニス部
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あぁ、そうだ、と幸村が唐突に声を上げる。世間話でも口にするような、そう言えば今思い出したんだけど、と言わんばかりの軽い声だった。ふわりと微笑む彼の言葉の続きを待つ。密かに先程の話題を掘り返してくれるなよ、とドキドキと煩い心臓を押し込めた。
「汐原さん、好きだよ。」
「うぇ?!」
けれど実際に彼が口にした言葉は予想の斜め上に飛んだ物で、驚愕で声が裏返る。先程まで、ケーキの件でやいのやいのと騒いでいたブンちゃんや昌山の声が止んでいた。待って、待って。
彼とあたしは初対面だ。それに自分で言うのも少し悲しい物があるが、あたしは一目惚れされるような身なりをしているわけでもない。なのに、幸村は何を言ってるんだ。どう考えても揶揄っているとしか思えない。あぁ、そうか、冗談だ。
「幸村、冗談は止めてよ。」
「俺は本気だよ。仁王や昌山がよくキミの話をしてくれてね。気がついたら好きになってたんだ。……可笑しな事を言っているかい?」
可笑しな事も何も、あり得ない事だろう。本気だ、なんて言葉を聞いても信じられる訳もない。
「仁王、どんな話をしたの……。」
ばくばくと煩い鼓動も赤くなる頬も自覚して、責任転嫁する先を求めて柳生の格好をしたままの仁王に視線を向ける。彼は困ったように眉をハの字に下げた。困っているのはこっちの方だと言うのに。
「何処を見とるんじゃ。俺はこっちぜよ。」
トントンと右肩を叩かれ反射的に振り返る。右頬を人差し指で突かれた。苛つきが湧くよりも先にその人差し指の持ち主を辿って呆然と声を上げる。銀色の髪に、口元のセクシーな黒子。紛う事ない仁王の姿だった。
「え?だってさっき……。」
先程迎えに来てくれた柳生は仁王だった。けれど今、仁王は仁王だと言う。それならば、柳生は柳生であるのが当たり前で。駄目だ混乱してきた。
「あたしが病院に着く前に元に戻った?」
「そんな事はしとらん。」
どういう事だ、と柳生の姿の、仁王曰く柳生に視線を向ける。彼は眼鏡のブリッジを押し上げるだけで、何処吹く風だった。おいコラ、紳士。
仁王が言うには、柳生が仁王で仁王が柳生なのに、仁王は仁王が仁王で柳生が柳生だと言う。違う。これだと仁王が二人居る。どちらかは柳生の筈なのだ。
あたしを迎えに来た方の仁王に見分ける努力をすると宣言した手前、考える事を放棄する訳にもいかない。ジッとあたしの頬を突いた方の仁王を見つめる。何かヒントは無いか。
「琹ちゃん、そんな風に見られると照れるぜよ。」
銀髪の仁王があたしの目を塞ぐように掌を当てた。不自由な視界の中、昌山が至極楽しそうに上げる笑い声が耳を突いた。