Target3:立海大付属中男子テニス部
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柳に手を引かれて辿り着いた場所はとある病院だった。そこで漸くあたしは彼等の真意に気がつく。そうか、幸村のお見舞いに。成る程、幸村のお見舞いが目的だったのなら部活中であろうあの時間に仁王があたしの迎えに来たのも納得が行く。
あたしは手慣れた手つきでお見舞いの手続きをする柳に手を引かれ病室のドアをノックした。賑やかな声がするだけで入室の許可はもらえない。あたしを置いて行った彼等は、昌山も含め先に着いていたようだ。
「……これ、勝手に入っていい?」
「構わない。いつものことだからな。」
視線で再度手を離してほしいと訴えるが躱される。あたしは諦めて左手でドアを開いた。じわじわと開くドアに比例して、だんだんと中で行われている会話が大きくなる。その中で見つけた彼。彼はあたしを見つめて手招きをした。
「初めまして、汐原さん。」
あたしがその手に倣って近づくと幸村は微笑んで誰も使っていなかった椅子を勧めてくれる。
流石に柳もあたしの手を離してくれた。
「随分と仲良くなったんだね。」
その言葉には即答出来なかった。仲良く、とは違う気がするのだ。彼等の好意をあたしは拒否し続けているのだから。
「う、ん……?仲良くしてもらってるよ。」
「そう。赤也や仁王が苦労をかけてないかい?」
電動式のベッドの上部分を持ち上げ、そこに背中を預けたまま此方に顔を向ける。それは少し寂しそうに見えた。
周りにいる部員達は、あたしと合流する前に予め用意していたのだろう、人数分のケーキをアレがいいコレがいいと選んでいる。といっても、主に声を上げているのは昌山とブンちゃんだ。わいわいと少々騒がしい中で、幸村の周りだけしん、と静まり返っている。こんな彼をあたしは想像なんてしたことが無かった。
「あたしがかけてる方だよ。」
「……そう。」
それ以外声が、出なかった。言葉が見つからなかったわけじゃない。ただ、嘘を吐く事が出来なかった。
あたしが彼等との距離を置こうとしている事も、赤也に暴力を振るった事も。隠してはいるが嘘は吐いていない。その程度に留めるので精一杯だった。
あたしを見つめる幸村の目がとても綺麗だったから。
「汐原さんは、俺達の事が嫌いかい?」
幸村がそっとあたしの頬に掌を添える。真田が何か言いたげに口を開くが、柳がそれを止めていた。先程の柳の質問にも通じるものがあるからだろうか、柳は戸惑いを見せるあたしを助けてはくれない。
幸村は何処まで知っているんだろう。
あたしは、彼等を嫌ってはいない。寧ろあたしは。
「……嫌いじゃ、ないよ。」
やっと絞り出すように出てきたソレ。ただ、あたしが臆病なだけで。嫌いになんか、なる筈が無い。
あたしは全員に好かれる事なんてあり得ないと思っている。だから、いつか、必ずあたしを嫌う人に出会う筈なのだ。それが、怖いから。だから、ちょたやがっくん達の独占欲を言い訳にして立海の人達を拒絶するのだ。
ゆるりと頬に添えられた幸村の掌を彼の太ももに落とす。出来るだけ優しい手つきを心掛けたが、拒絶の意思は伝わっているだろう。彼は静かにそう、と紡いだ。
幸村の目には絶望が浮かんでいた。とても綺麗な程に。ぽきり、と心が折れているようで。あぁ、そうだ。合宿の時、仁王と柳のダブルスと対戦した準レギュラーの彼等の瞳に良く似ている。
「ねぇ、幸村。」
彼は何も言わないままにあたしに焦点を合わせる。ゆらゆらと揺れる瞳が、とても綺麗で。
「また、逢いに来てもいいかな。」
ごくりと本来口にしたかった言葉を呑み込んで、代わりに別の言葉を吐き出す。諦めてしまったのか、なんて聞けなかった。
「いつでもどうぞ。」
そう言って笑った幸村の瞳に浮かぶ、絶望を綺麗だと思ったのはこの時だけだった。