Target3:立海大付属中男子テニス部
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学校から程近い交差点で汐原さんの姿を見つける。あっちこっちと行き来している所を見ると道に迷っているらしい。
今日は幸村君のお見舞いに行くために部活動を早めに切り上げていた。今頃仁王君達が校門の前で待っているだろう。今日昌山君に会いにくる汐原さんを序でに幸村君に紹介しようというのは仁王君の提案だった。
うろうろと手元のスマートフォンに視線を向けたまま道を探す汐原さんの姿に、仁王君の言葉を思い出す。"汐原は俺達を見分けられるんじゃ"と。私なら兎も角、仁王君のイリュージョンを見分けられる筈が無い。けれど、本当に見分けられるのだとしたら。
どん、と誰かにぶつかる感覚がする。次いで、カラカラと硬い何かが地面に落ちた音が聞こえた。謝罪を口にするより先に、相手の方がすみません、と頭を下げる。それは先程まで少し離れた場所で道を探していた汐原さんだった。
「こちらもすみませんでした。少し考え事をしておりまして。汐原さん、お怪我はありませんか?」
私の声に汐原さんが顔を上げる。ぱちくりと目を瞬かせる様から、どうやら今初めてぶつかった相手が私だと気がついたらしい。
彼女のどうして、という疑問には答えず彼女の足元に落ちたスマートフォンを拾い上げた。少し砂埃がついた画面を手の甲で払い、画面に割れ等が無いか確認する。問題は無さそうだった。
どうぞ、と差し出すと彼女は素直に手を伸ばす。そのままこちらも素直に返そうと思っていたのに、悪戯心が覗く。今ここで、仁王君のフリをしたなら彼女は気がつくのだろうか。
考えるよりも先に身体が動いた。彼女の手首を掴む。
「遅かったのぅ。」
仁王君の声色に似せた声に驚く彼女の腕を少々強引に引いた。当たり前のように傾いた彼女を受け止める。驚いたように仁王君の名前を口にする彼女は、柳生比呂士の姿をした私を、仁王君だと信じているようだった。
あぁ、やはり。彼女は私達を見分けられる訳ではないのだ。自分勝手だと思いながら、落胆で肩を下げる。
欲を言うならば、見分けてくれれば、と思っていた。自らの意思で彼の作戦に乗ったとはいえ、人を騙すというのは心地良いものではない。たった一人でいい。見分けてくれたのなら、それだけで私の心に滲む罪悪感は救われる気がした。
けれど実際にはそう上手くもいかない。話してみれば、どうということはない。彼女は単なる偶然で仁王君のイリュージョンを見破っていた。
「ねぇ、仁王。ヒント頂戴。」
「……ヒント?」
あくまでも仁王君だと思い込んでいる彼女に、思わず自身の声色で問いかける。それには何も感じなかったのか、そのまま言葉を続けた。
「そ。流石に完璧に入れ替わられたんじゃあたしには見分けられないし。ちょっと手を抜いてくれれば、頑張って見分ける……うん。努力はする。」
彼女は絶対に見分けると言い切りはしなかった。困ったように眉を顰める汐原さんは、恐らく見分ける自信はないのだろう。それでも見分ける努力をしてくれる、と。
彼女の言葉に、胸中の諦めは喜色に塗り替えられる。私は思わず、隣を歩く彼女の肩に手を乗せ耳元に唇を寄せた。誰にも聞かれないように小さく囁く声は、緊張で掠れていたけれど。
「……ちゃんと、見分けてくださいね。」
彼女は一歩飛び退き、耳を押さえて頬を赤く染める。それから仁王君の名前を呼び、揶揄うような態度を咎めた。
あぁ、心中に覗く悪戯心を全て仁王君のせいにする、狡い私をどうか彼女が見つけてくれれば。
目的地に着いた事を告げると汐原さんが昌山君に駆け寄る。その隣に居た仁王君の意味有り気な視線を、眼鏡のブリッジを押し上げる事で躱した。