Target3:立海大付属中男子テニス部
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三年に上がってすぐのこと。俺のクラスに昌山という時期はずれの転校生が来た。俺は特に興味も無く、無心になって窓の外を見とったが、そいつは休憩時間になると俺に話かけてくる。
「なぁ……汐原琹って知ってるか?」
そこで初めて見た昌山の目には真剣味なんて微塵もない。汐原という奴が見つかる事が重要なのではなく、俺に話しかけることの方が大切だと言っとるようなもんじゃった。それに抱いた感情は、正直に言って不快感。初対面でそんな態度は不審でしかない。それでも無視をするとしつこく話しかけてくるもんじゃから、視線を窓の外に投げたまま、俺は知らんと一言だけ返した。
そいつは丸井にも同じ質問をしたようで、丸井も知らねぇと首を傾げているのを視界の片隅に捉える。ピンポイントでテニス部員に問いかけるそいつに、ちょっと興味が沸いていろいろと質問してみた。単なる好奇心。
「そんなに汐原琹が大切なんか?」
昌山の汐原琹の扱いは、どちらかというと雑なもので、けれどアイツの口から汐原の名前が出ん日は無い。
汐原ならこうする、汐原はこうだった、あの時汐原がそんな事をした。と、何かに
だからこそ合宿で汐原を見つけた時、どうにも話してみたくなった。あそこまで昌山に肩入れされとる汐原とやらを揺さぶってやろうと口にした昌山の名前に、興味が無いとでも言いたげにそっぽを向いてコートから出て行った汐原。それを見た俺の胸がきゅっと締め付けられる。それがどうしてだか分からんで、ただこの感情を持て余しとった。
その答えを探ろうと汐原に与えられた部屋をノックするも、返事は無い。汐原だけでなく他のマネージャーも不在なようだった。普段なら特段気にする事でもないよくある事に、じわりと不安が滲んだのは昌山の台詞の所為だろう。
「でもまぁ……俺も汐原もこの世界の人間じゃねぇから、お前らとずっと一緒にいる訳にいかねぇし。いつかは帰んないとだよなぁ。」
何でもないとでも言いたげに、欠伸混じりで言い放った昌山の言葉が、やけに頭に残る。この世界の人間じゃないだとか、非現実すぎて笑えん冗談じゃと思ったのも束の間、嘘を吐くなと揶揄い混じりに投げた丸井の言葉に不快そうに眉を顰めた表情からは、偽りでは無いという訴えを感じた。だからこそ、それが事実なのか汐原にも確認したい。
汐原を探そうと宛を探して視線を彷徨わせる。土砂降りの空を見て、外に出た可能性を即座に切り捨てた。食堂、待合所、その他諸々汐原の行ける場所を探し、その間にすれ違った氷帝の部員に問いかけ、それでも見つからん汐原の影に、一瞬だけ"元の世界に帰った"という馬鹿みたいな思考が過る。昌山の言うことが事実なら、可能性が無いわけではない。けれど信じたくは無かった。
屋外に出たという可能性にすがって外を探そうと玄関に向かった俺の目に、ずぶ濡れの汐原の姿が入る。その事に心底安心して溢れた、感情。それは。
目の前のネットの先に見える氷帝の部員を越えて、汐原の姿を捉える。
異世界なんて馬鹿らしい事が事実だなんて信じたくはない。じゃけど、出会ってからの汐原の言動は昌山の言葉も、滲む俺の感情も、否定してはくれんかった。