Target3:立海大付属中男子テニス部
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ぶらりと枝の下に下げた脚先を見て、ひゅっと息を呑んだ。枝を移ってやっとたどり着いた先に居た筈のカルピンは、あたしの視界に入る範囲には居なかった。彼はあたしがカルピンの座っていた枝まで登りきったのを確認して、すらり、としなやかな仕草で地面に降りていった。薄情な奴だ。
あの鳴き声は放っておけ、という意味だったのか、と気がついた時にはもう遅い。不安定な足場に肝を冷やしながらどうやって降りるか考えなくてはならない。もうすぐオリエンテーションも始まってしまう。
少々高いと言えど、降りようと思えば降りられるのかもしれない。そんな高さの木。でも、あたしにはとてもじゃないけど無理だった。足が地面についていない、それだけで恐怖し、降りられない自分が酷く情けなくなって上を向く。すると若干ではあるが気が楽になった。
高さがあたしに与える恐怖感は、別に過去に何かあったとかそんな大層なものではない。単純にいつからか、高い所に恐怖を抱くようになっただけだ。人はそれを高所恐怖症と言うのかもしれないけれど、そこまでではないと自分では思っている。単に高い所が苦手なだけ。
ともかく今はこの現状を打破しないといけないと思考を働かせるが、何も思いつかない。誰かに助けて欲しいと連絡しようにも、スマホは足場にしたスポーツバッグの中だ。
「汐原。」
どうしようか、でも、と堂々巡りしている、そんな時に聞こえた声にあたしは反射的に視線を下に移してひっと声を上げた。
果たして木の下に居たのは宍戸だった。足元に荷物を置いてこちらを見上げていた。といっても、彼の身長を考えると数十センチ視線を上げるだけであたしが腰を据える枝に視線は届いてしまうのだけど。多分、飛び降りても怪我すらしないんだろう。運が悪くて足を挫くくらいか。
「何してんだ?そんなとこで。」
「猫を助けようとして降りれなくなったんだよ。」
「……?飛び降りればいいじゃねぇか。」
普通ならそうだろう。あたしだって高い所が怖くないなら難なく飛び降りて食堂に向かっていた。でも、現実はそうはいかない。
「高い所が怖くて、飛び降りれないの!」
視線を下にやる事が出来ず上を向いたままだから、宍戸の表情は分からない。でも出来るなら、この事は知られたくなかった。あまり格好いいものではない。
あたしだって別に、無意味に何度も下を向いた訳じゃない。降りようとして、向いたのだ。それでも地面からの距離を感じると恐怖で飛び降りられなかっただけで。
「なぁ、汐原。目瞑って飛び降りてみろよ。」
「え、でも……。」
そんなことしたら、着地なんて出来ないだろう。幾ら運が悪くて捻挫程度で済むと言っても、身体を投げ出すのとは違う。それは少々無謀なのでは、とつい訴えるように宍戸に視線を向けると、彼は笑っていた。