Target3:立海大付属中男子テニス部
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「どうぞ、使ってください。」
「……ありがとう。」
背中に赤也を引っ付けたまま、柳生に差し出されたハンカチを受け取る。目元を拭うが心中の澱みは拭いとれなかった。その澱みの名前が、後悔だという事は知っていた。
「大丈夫か、汐原。」
恐らくかろうじて腫れていないだろう目を柳に向ける。彼はこの涙の意味するところを知っているのだろうか。知っているのだとしたら、こんなあたしを彼はどう思っているのだろう。真実を知るのは怖かった。
「大丈夫、ありがとう。……とりあえず、赤也、離して。そろそろ部屋を片付けないと間に合わない。」
「……嫌っす。」
トクリトクリと背中越しに彼の心音が聞こえてくる。柳の注意に緩められていた腕は、彼の言葉通り、離すまいと再度痛いくらいの力が込められていた。
「だって琹さん、東京に帰っちゃうんでしょ。」
そしたらもう会えないかもじゃん、と口にしたのは、きっと誰かに聞かせる為のものではないんだろう。とてもか細かった。
確かに、幾ら神奈川と東京が隣接県だとはいえ、移動には時間もお金もかかる。部活で毎日クタクタになって帰るあたしが、神奈川まで行くことはほぼ無いだろう。そして同様に、赤也が東京に来るのは時間の問題に加え、金銭的にも難がある。彼がもう会えないかも、と言うのも無理は無かった。
「ねぇ、赤也。あたし、今月中に立海行くつもりなんだけど。」
「え、そうなんすか?」
柳生のハンカチを手にしたまま返すと、背後から素っ頓狂な声が上がる。
目の前の柳と柳生からは驚いた仕草は見られなかったが、柳は何かしらノートに書き込んでいた。その情報の役立つ所をあたしは知らない。
とりあえず緩んだ腕から抜け出すように身を捩った。するりと抜けた身体の向きを変え赤也に向き直る。彼はぶすっと頬を膨らませ、不満気に視線を逸らす。それでもその頬は紅く染まっていた。
これは仁王に昌山と会わせてやると言われたと正直に話したら余計に拗れるだろうなぁ、と人知れず溜息を漏らす。
彼はとても可愛いのだけど、時にストレートな感情は扱い難いものだ。ご機嫌を取るには、と考えている自分はあまり綺麗な人間ではない。
そんな事、疾うの昔に知っていた。
「……赤也にね、会いに行くよ。」
だからここではバイバイ、と三人の返事を待たずに女子部屋へと駆けた。