Target3:立海大付属中男子テニス部
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最初に思ったのは、最低な女だな、だった。
見るからにレギュラーに近づく為にマネになったと言わんばかりの行動で。コートの外で日吉にウォータージャグを持たせてのうのうと歩いていたのにむかついてアイツから視線を逸らす。ほんと、イラつく。
逸らして尚、視界の端に柳生先輩に助け起こされてるアイツの姿が入って余計にイライラ。だから、コートに入って来たアイツに言ってやった。
「アンタ、いい気になんなよ。」
本当は、ビビるかと思ったんだ。臆病そうに自分一人では何も出来ません、とでも言いたげな奴だったし。なのにアイツは汐原琹は、予想とは裏腹に戸惑いは見せたがビビらなかった。それに余計にイラついて更に口を開く。
「氷帝って女の為に練習サボるようなヤツが準レギュラーなんだ?余裕なんスね。」
その言葉にアイツはカッと急に目を見開いた。挙句、俺に平手打ちをかまして飄々と真田副部長に頭を下げる。俺の練習時間を減らしてすみません、と。だったらやんなよ、と心の隅で思った俺は、夕食後に柳先輩にアイツに謝るように言われてぶすくれる。俺は悪くねぇのに。
嫌だと拒否しようとした俺に、近くに座って食事をしていた柳生先輩が立ち上がる。あ、これヤバイ、と思っても遅い。
先程から聞いていましたが、と前置きを置いて説教に柳生先輩が加わった。それもこれも全部アイツの所為だ。
「あーっ!!もう!分かりましたよ、謝ればいいんでしょ!!謝れば!!」
長々とした説教にアイツへのイライラも加わって、自棄になって喚く。
「あぁ、それなら今汐原はコートの外周を走っているだろう。謝るなら早めにしておけ。」
その言葉を最後に柳先輩は食堂を出て行って、それに柳生先輩も続いた。なんでアイツはランニングなんか、と思いながら渋々立ち上がる。どうせ誰かに運動出来るアピールでもしたいんだろ、とコートに向かった俺の視界に入ってきたのは。
ヘロヘロと顎を出してぜぇぜぇと息を乱して、走ると言うには遅い速度でコートの外周を進む汐原さんの姿。周りを見渡しても俺以外居ないのに。誰かにアピールするでも無く、ゆっくりと足を進めて俺から距離を離して行く。思わず、その背中を追いかけた。それは直ぐに追いついて、何も考えずに無理やり腕を引いてこちらを振り向かせる。
本当は、なんで走ってんだよ、とか誰にアピールしてんだよ、とか。言ってやりたい事は一杯あったのに。
「……今日はすんませんっした。」
自分の思いとは裏腹に、口を吐いたのは謝罪だった。柳先輩に言われたからじゃない。大体、ここに来たのだって文句を言いに来たのであって謝りに来たわけじゃない。なのに。
汐原さんは器用に肩で息をしながら、笑い声を上げた。それから、まだ走るから腕を離して欲しいと。
「別に汐原さんが走る事ないじゃないっすか。」
「まぁ、誰かに言われた訳じゃないから別にやめてもいいんだけどさ。キミが十周走ったのに、あたしが二周半っていうのは、なんか不公平じゃない?」
「……それは、そうっスけど。」
なんでこの人は、先程まで自分は悪くないから謝らないと心中で主張していた俺を子供のように扱うんだ。腹が立つ。別に汐原さんが悪い訳じゃねぇのに、と無意識に改めていた考えの所為で余計にそれは強調された。
あぁ、もう!!なんでこの人は俺の思い通りにはなんねぇんだよ!!
「それなら俺も一緒に走るんで、残り四周でいいっしょ。」
残った分を二人で半分。
構ってくれない汐原さんに勝手にぶすくれた俺の提案を、この人は困ったように呑んでくれた。
先程別れたばかりの琹さんの事を思う。あの人はいつも俺に対して離して、とそれしか言わない。日吉とか跡部さんとか、氷帝の奴らは拒否しねぇくせに。あぁ、腹が立つ。苛立ちを感じながらも激しく脈打つ心臓に、俺はただ首を傾げていた。