その少女、少年につき対立
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潔すぎる。
率直な感想を言うとすれば、それだ。
立場を逆に考えたとき、あたしならまずあり得ない。
少なくとも、あんな理由で納得なんてしない。
何処か跡部には思う所があったのだろうか。あの一言二言の会話で。
そんな疑問を抱いていた、数日前のあたしが懐かしいと思う。確かに、跡部の呼び出しに応じてからは片手で数えられる程度の日数しか立っていない。それでも、懐かしいなんて。そう思うのは一種の現実逃避か、それとも。
下校しようと下駄箱から靴を取り出すと、メモが挟まっていたのに気づいて思考が止まった。
そんなベタなことがあるか、と考える頭を振ってバカな考えを振り払う。
あたしは女だ。ラブレターなんて、そんなもの。
若干震え始めた指先で開いたメモは、整った字で書かれていた。
女の子が書いたと言うには些か右上がりの字が目に付く。
まぁ、あたしの字も右上がりの字だから、それだけで女の子が書いたものではないと言うことも出来ないのだけれど。
ゆっくり、ゆっくりとその短い文章を視線でなぞっていく。たった一文の短い文章を、繰り返し、繰り返し。その回数を重ねるごとに、この胸に広がるのは喜びなんてものではなく、全く逆の、絶望に近いものだった。
正直に言うなら、女の子からの呼び出しを期待したのだ。別に同性愛者だという事もないが、同性の友達が出来るかもしれないと心が踊ったのは確かだった。
あたしは元々一人を好むとか、孤独でも生きていけるとか、そんな陰りのある人間ではなく、それなりに友達は欲しいと思っていたのだから友達作りのきっかけになり得るこの出来事が、嬉しかったのだ。結局、その喜びは跡形もなく崩れ去ったのだけど。
差出人は、つい先日に顔を合わせた生徒会長からだった。あいつはコレを狙っていたのだ。
長すぎず、短すぎず、会話の内容を忘れさせずかつ、許可くれるという安堵感を徐々に募らせていたこのタイミングを。
メモを握りしめ、靴を下駄箱に戻すとあたしはそのまま生徒会室へと駆け込む。跡部はいないかもしれない。それでも躊躇なく扉を開けたのは、最早意地に近く、何が年上の余裕だと自らを鼻であしらった。
「どういうことか、説明してもらいましょうか。」
疑問符をつけるのも阿呆らしく、跡部に迫る。気分的にはカツカツと音を鳴らしている感じだが、残念ながら先程脱いでしまった上履きを、もう一度履く前に走り出したために、あたしには音を立てる術はなく、それが擦り減らされた自尊心を更に削りとっていくのだった。
「『てめぇは今日から俺様の犬だ。』」
メモ書きと寸分違わず同じことを繰り返された所で説明になどなっちゃいない。誰が好き好んで、お前の犬になんかなるかよと、口を開いた瞬間にひらりと一枚の紙を目の前で広げられる。
「いいのか?俺様が校長にたった一言、3Bの状況が芳しくないと言えばてめぇはその格好を辞めざるを得ねぇ。」
「……あたしが大人しくリードに繋がれてれば黙認してくれるって言うの?」
ふっと跡部は、その青い目を僅かばかり細めて、まるで上出来だとでも言うようにゆっくりと頷いた。あたしは、舌打ちを呑み込んで跡部がちらつかせた書類を奪い取る。入部届。
それは、脅迫だ。
跡部は二つの選択肢を用意しながらも、実質一つを選ぶように仕向けている。踊らされている。この、男に。
生徒会室を後にしてもう一度下駄箱を前にした時、思わず漏れた罵声は女の子が吐くものにしては、はしたないものだった。