その少女、少年につき戸惑う
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じっと鏡に映った"あたし"を茫然と見つめる。
平均よりは大きいと自画自賛していた胸元の膨らみは見る影もなく、顎のあたりで内巻きに撫でつけられていたボブヘアはさらりと頬を撫でる程度の長さまで短くなっていた。
まるであの超次元テニスを展開する某テニス漫画の主人公のような髪型に、ハハと乾いた声が漏れる。
嘘だ。
認めない。
スカートやショートパンツを好むあたしが選ぶはずもない足首までの丈のデニムパンツ。女子の中でも低身長を誇っていた身長も、伸びていた。おそらく男子としては低身長の部類なのだろうけど。
思わず胸元に手を持っていく。その手ですら、骨ばった男の手をしていて絶望が思考を埋める。ペタンと柔らかさを感じない胸元から視線をもう一度鏡に戻した。
顔。
ひやりと肝を冷やしながら顔を眺める。
パッチリと大きな目に長いと言われるまつ毛。ふっくらとした頬に低いぽってりとした鼻。少し過剰気味に採点するなら中の上くらいか。
鏡に映った顔はあたしのもので間違いない。それでも、骨格は男のそれに違いなかった。
あたしは慌てたようにトイレに駆け込む。信じたくない一心でぐっと目を閉じたまま下着と一緒にズボンを下げ、恐る恐る目を開く。
「……嘘でしょ。」
視界に映るソレは間違いなく男を象徴するものだった。恥じらいとか、そんなもの浮かんでくるわけがない。それ以上の絶望と混乱が思考を占める。そこでやっと理解した。
あたしは、男だ。
理解したところで納得するかと聞かれたら答えはNOだ。信じない。認めない。あたしは列記とした女なのだ。誰が何と言おうと。
取り敢えず下着とズボン慌てて履いて、自室へと駆け込む。リビングから煩いと母に一喝されたが知ったこっちゃない。それどころじゃないのだ。
部屋は変わらずあたしの部屋のままだった。
くまのぬいぐるみに積まれたゲームソフト。何より部屋の大半を占める本棚。変わっていない。いないのだけど、違う。何かが違う。
ぐるりと見渡したあと、洗濯物の山がないのだと気付いた。普段母の手によって洗濯された衣類は入口近くに山積みになっている。それが、ない。
がらりとクローゼットを開け放つと服はすべてそこに収められていた。ほんの少しの期待を込めて漁る。
服、服、服。
まるで自分のものではないような衣類にクラクラと眩暈を覚えた。ショートパンツが一着もない。勿論スカートも。
男だと理解した瞬間に悟ってはいたけれど、この世界のすべてがあたしが女であることを否定する。かけられた真新しい制服ですら、明らかに男子生徒のものだ。
徐々に胸を占めていく感覚に、へたりと座り込んだ。身体が重い。何もかもが嫌だ。
あたしは女なのだ。
確かに、女だったのだ。
あたしが何をしたというのか。神様がいるならきっとその神様ひどくあたしを嫌っているのだ。
「こんなの、認めない。」
部屋に吸い込まれたあたしの呟きが余計に絶望を掻き立てた。