その少女、少年につき金髪
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芥川の隣に腰を下ろした。
成る程芥川が昼寝場所に選んだだけあって、此処は幾分か陽射しが和らいでいる気がする。
青々と茂る木々の合間を縫って射し込む陽射しが、あたしの顔に影を落とした。
眩しいけれど、だからこそ色濃く残る影。
早く夏が終わればいいのに。
終わってくれれば、きっと跡部もあたしも、あるべき形に戻れるのに。
あたしの影が伸びて、芥川の顔にかかる。なんだかなぁ。気持ち良さげに寝息を立てる彼を起こすのは、こちらが悪者にでもなった気分だ。
「……帰ろうかな。」
何をするでもなくここに居ても仕方がない。ただ、静かに眠っている芥川の邪魔をするだけだ。それでも。あと、少しだけ。少しだけここに腰掛けていよう。
特に意味はない。そう。意味はない。家に帰るには時間が早いというだけだ。ただ、それだけだ。言い訳をするように繰り返す。
(此処はどうにも居心地がいい。)
和らいだ陽射しが、湿っぽい空気が、濃い影が、心地いい。だから、重い腰を上げる気にならないのだ、とそれすらも言い訳にした。
「……芥川、起きて。」
隣に腰を下ろしたまま、もう一度だけ声をかけた。揺さぶることはしない。芥川がもし起きたら少しだけ、少しだけ話を聞いて欲しかった。ただそれだけのエゴで、起こす気にはなれなかった。
「……あたしね、女の子なんだよ。」
「他の子と変わらない、女の子だったんだよ。」
「好きな人もいたりして、友達にそれをからかわれたりもして……。それでね、作戦会議だー!とか言ってファストフード奢らされるの。」
当たり前のようにあった日常が、ある日突然奪われた。何があっても手元に残ると思っていた"性別"や"年齢"と言ったステータスですら失って。友達もいない、家族はあれど100%自分の家族ではない。元の世界には、当たり前にあったもの。それがここには1つもない。
だから意地を張るのだ。
自分は年上だ、女の子だと。
その意地だけが、世界を超えて持ち込めた"汐原琹"のステータスだった。
なんで、こんな事を芥川に零してるのだろう。
愚痴ったところで聞いている筈もないのに。
鳳の打ったテニスボールが当たった時よりも、今の方が胸が痛くて、痛くて。
独りぼっち、その言葉が頭の中をリフレインする。
本当なら大声を上げて泣き叫びたいのだ。
寂しい、帰りたい、こんなところに居たくない。
だけどそれをしないのは。やっぱりただの意地でしかなくて、じわじわと自分の首を締め上げる。
とりあえず、跡部に芥川の場所を連絡しあたしはそのまま帰ることにする。
相変わらず芥川は眠ったままで、きっとあたしの言葉は聞かれてないだろう。
次に会った時には、きっと。彼にも何かしらの八つ当たりをするのだろうから、せめて今だけは優しくあろう。それが、年上としての矜持だ。
「……ありがとう、芥川。」
樺地が迎えに来るまでの間は、どうかごゆっくり。それがあたしの優しさだからね。