黄色い花の飼い主
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ざり、と踏みしめた地面は思いの外柔らかい。ずぐりと沈む後ろ足の感覚が楽しくてくるりと回ってみた。薄汚れた灰色の足を土が茶色く汚す。くしゃりと何かを踏んだ感触がしてもう一度回ると、首根っこを掴まれて持ち上げられる。視界が一気に高くなった。
「こらっ!ダメじゃないか。花壇に入っちゃ。」
持ち上げられた身体は、人間の視線と同じくらい。紫陽花みたいな紫色の瞳に、深い青のゆるりと波打つ髪の人間だった。
何度かリッカイには来ているが、この人間は初めて見る。みゃーとあざとく鳴いてみせるが、人間は何やら怒っているようで私を地面に下ろしてから、お尻を強く押した。その力に逆らえる訳もなく大人しく人間の足元に腰を下ろした。
「ここで良い子にしてるんだよ。」
そう言って私を下ろしたすぐ隣に屈みこむ。その足先をぺしぺしと右の前足で叩くと、人間は優しくダメだよ、と言って一度私の頭を撫でた。
何がダメなのだろう。私は何故怒られたのだろう。
私は言いつけられた通りに人間の足元に腰を落ち着けたまま、人間の手元、先程カダンと呼ばれた場所を見やる。そこには黄色い花が咲いていた。
みゃーと一つ鳴き声を上げる。なんの花なのかを問うたつもりだったが、それが伝わるわけも無く人間は此方を振り向く事はしない。構えと、もう一度人間の足先をぺしぺし叩くがそれすらも無視だ。
もういい。それならニオーでも探しに行こう。
腰を上げ、方向転換をしていつもの場所を目指すために人間と距離を取ると、目の前に深緑の柱が二本現れる。人間の足だ。
「精市、やはりここに居たか。」
「蓮二。……すまない、何か用だったかい?」
今しがた現れた人間はカダンの傍に屈んでいた人間を呼んだ。どうやら、セーイチというらしい。そしてセーイチも、現れた人間をレンジと呼んだ。ふむふむ。
私は裏庭に向けていた足を止め、レンジの足元にすり寄って、みゃーと声を上げた。
「……ふむ、こいつは。」
「蓮二、知っているのかい?」
「あぁ、仁王が時折餌をやっている猫だ。」
ニオー?唐突に出た知っている名前に、どういうことだとレンジの足をぺしぺしと叩く。レンジもセーイチ同様、痛くも痒くもないようで、こちらを見向きもしない。ニオーを知っているくせに、随分と薄情な人間達だ。不満気ににーと唸ると、ひょいと抱えられた。
「仁王の猫なら、ちゃんと見ておいてもらわないとね。」
「何かあったのか?」
「あぁ、花壇に入って荒らしちゃったんだよ、この猫。」
前足の下に手を差しこまれてセーイチに持ち上げられる。同じ視線まで持ち上げられるとセーイチの背後のカダンが良く見えた。綺麗に並んだ黄色い花の内、何本かは折れてしまっている。柔らかい土がでこぼこと荒れていたことから、もしかしなくても私の所為だろう。
申し訳なさから、ふにーと鳴いてみせるが、セーイチには伝わっただろうか。