case5:マネージャーにならない女
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二年前、あたしは入部届を出さなかった。最近は酷くそれを後悔している。
ぼーっと何時ものように
斯くして、数分の時を過ぎてからこの三年六組の
「あれ、汐原さん、今日はすぐに帰らないんだね。」
かたりと音を立てた方を見やると、二年前に私を男子テニス部のマネージャーに誘った張本人がその開いているのか分からない目でこちらを見ていた。あぁでも、多分。その目は伏せられているのだろう。彼はどちらかと言うとパチリと大きな目をしていた気がする。二年程前の記憶なので定かではないが。
「何となくね。不二はこれから部活でしょ。急がなくていいの?菊丸はもう出てったみたいだけど。」
このクラスのもう一人のテニス部員の名前を挙げると、不二は少し眉頭を寄せて顎に手を当てた。それからじっとこちらを見つめてくる。あぁ、いや。瞼は伏せられているから見つめてくると言うのも変な話か。ともあれ、この男は何かを考えるようにしてその場を動かない。部活は良いのだろうか。
「部活、行かなくていいの。」
もう一度繰り返したそれは、酷く不二を拒絶しているような口振りになってしまって、思わず視線を逸らした。別に彼と話したくないなんて思っていないのに。寧ろ本心はその逆で。
「そろそろ行くよ。」
「いってらっしゃい。」
反射的に口にした言葉に勝手に頬を染める。こんな台詞は私の立場で口にしていい台詞ではない。
「……汐原さん。」
「何。早く行かないと、部長……手塚だっけ、に怒られるんでしょ。」
「そうだね。……ねぇ、どうしても、マネージャーをしてくれる気はないのかな。」
不二の言葉は甘美だ。今も、そして二年前も。
思わず逸らした視線を不二に戻す。そして息を呑む羽目になった。
予想外に彼の瞼は持ち上げられていて、ぱちりとした意外と猫目な茶色い瞳がこちらを見ていたものだから。
あの時、二年前に誘われた時と同じ気持ちが滲み出てしまって。
「……ないよ。」
「……そう。」
あたしの言葉に不二は大人しく背中を向けて教室を出て行った。
あたしは、ほぅ、と小さな溜息を漏らし、そのまま机に顔を伏せる。
あぁ、良かった。バレなかった。
ずっと隠しているあたしの気持ち。
そう、何度誘われても、その相手が不二だとしても。いや、不二だからか。あたしは彼の誘いに乗れないのだ。だって、近づいてしまったら。
(……不二の事を贔屓してしまう。)
それが彼の為にならないと分かっていても、きっとしてしまう。
その程度には、彼に心を奪われているのだ。
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