きっと夢中にさせるから
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「あんた達、バカじゃないの。」
聞き覚えのある言葉に振り向くと、案の定汐原さんがそこに居た。
彼女の言葉に込められた意味は以前とはまた違う意味だろう。その意味には心当たりが十分にある。
「こんな事しても、あの子は喜ばない。」
「でも、いじめられもしない。」
あの日から、汐原さんを俺の腕に閉じ込めたあの日から、俺達は仲の良かった女の子達から距離を取り始めた。
部員達の中には、好意を抱いて女の子に接していた奴も居ただろう。それでも、俺が見た事、汐原さんに聞いた事、それらを全て部員に説明した上で出した結論だった。皆が皆、根本的な解決にならない事には気づいていたが、この方法が確実で手取り早かったのだ。
けれど、突然今まで仲の良かった部員から距離を取られる女の子達には悪い事をしたと思う。汐原さんが言っているのはそう言う事だ。でも。
俺の言葉に僅かに目を見開いた汐原さんの口元には、仄かな喜色が讃えられていて。
「そうね。」
とくり、と小さく心臓が鼓動する。
これもまた、彼女をこの腕の中に閉じ込めたあの日からだ。
きっと正しかったのだ。世間的には間違いだったとしても、汐原さんにとっての最善の選択を取れたのだ。それだけで全てを許されたような気分になる。
全てを正しい方向へ向かわせるには俺達は子供で、全てを大人に任せてしまうには俺達は大人へと向かっていた。その曖昧な思春期という時間が過ぎれば、俺のこの胸に広がる痛みを思い出に変えてくれる日も来るのだろう。だけど今はまだ、そうしたくはない。だって俺はまだ、子供だから。
「ねぇ、汐原さん。」
「何?」
「……いや、なんでもない。」
俺の濁すような言葉に、微かに緩んでいた汐原さんの眉が歪んだ。
あぁ、その表情もいつか、もっと優しい物になればいい。我儘を言うなら俺がそうしたい。
だけど、俺はもう幼い子供ではないから。残念ながら、自らが作ったルールを破る事は出来ない。汐原さんに関わる事もない。
ならば今、この一瞬で、目の前の彼女の気を惹けばいい。まだその方法は思い付かないけれど。でもきっと、彼女を夢中にさせる方法があるはずだ、と思考を働かせる。
だって、きっと。
そう思ってしまう程には、俺の心は奪われてしまったのだから。
ちらりと汐原さんに視線をやると、かちりと視線がかち合った。
彼女の表情は少し強張っていたけれど、俺の口元は甘く緩んでいた。
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