きっと夢中にさせるから
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ、やっぱり丸井達に言いなよ。」
「言っても迷惑かけるだけだし、言えないよ。」
「……そっか。取り敢えず保健室行っておいでよ。酷いよ。」
木の陰でこっそり聞き耳を立てる。
汐原さんが差し出した手をとる女子は、うん、と小さく口にして足早に立ち去って行った。その子には見覚えがある。B組の、仁王や丸井と仲が良かったはずだ。
かちり、と音を立てて昨日の彼女の言葉と蓮二の言葉がはまり込む。あぁ、これは。
俺達のせいなのか。
「少し、聞いてもいいかい。」
「……居たの。」
俺が木陰から姿を見せると汐原さんは驚いたように一瞬だけ目を見開いて、すぐに睨みつけるように視界を細めた。
「あれは、いじめ、なのかな。」
「いじめじゃなかったらなんなのよ。」
実際にその現場を目撃はしていないものの、汐原さん達の言葉から推測するに、そういう事。そしてその原因は。
唇が震える。情けない。
けれど俺は口にしなければならない。
今、この場で真実を知っているのは彼女しかいないのだから。
「……その原因は……。」
「あんた達しかないでしょ!!」
汐原さんは声を荒げた。
睨みつけるような視線は、怒気を含んで涙を滲ませていた。否、滲ませるなんてぬるいもんじゃない。既にその頬には涙が流れている。
「あんた達が!!仁王達があの子に声を掛けなかったら!柳やあんたが早くにいじめに気付いてたら!!」
すっと息を呑んだ彼女の次の言葉が痛かった。
怒鳴りつけられたなら良かった。俺の所為だと罵倒してくれた方が良かった。
けれど実際には、彼女は俺の胸元を掴み悔しそうに顔を伏せ、震える声でごめん、と口にしたものだから。
「ごめん、幸村。君達は悪くないんだ。」
「それは違うよ。気が付いていたら対処は出来たかもしれない。」
胸が痛い。視界が滲む。
いじめの主犯が誰かは知らないけれど、いじめがある、と知っているのと知らないのとは大違いだ。それらしい人物にそれとなく釘を刺すくらいなら俺達でもできたかもしれない。少なくとも蓮二や仁王はそういう方面には長けている。
俺の言葉に彼女は緩く頭を振った。
胸倉を掴み上げるように握りしめられていた胸元は、縋り付くようにシャツが皺を寄せている。
「私の、所為なんだ。」
その言葉に、彼女へ向ける筈だった言葉は呑み込まれた。何も知らなかった俺達と、全てを知っていて何も出来なかった汐原さん。どちらが辛かったかなんて想像に容易い。
先程の汐原さんの言葉から、何度も俺達に伝えようとアドバイスしたのだろう。でも、彼女の友人はそれを良しとしない。だからこその昨日の発言。あぁ、汐原さんの言う通りではないか。本当に馬鹿なのは俺の方じゃないか。
俺は静かに汐原さんの背中に腕を回した。