残念ながらべた惚れ
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本当は、不安そうに俯く顔も、決して離すまいと力が込もる手も、速度を下げる足も。全部全部、愛しとる。
好きなんて言葉じゃ足りんのんじゃけど、それを口にせんのは悪戯に琹を不安にさせてしまう気がした。
「……のぅ、琹。」
「……なに。」
顔を俯かせて、涙を堪えて、少し不安に震わせる声でもきちんと言葉を返してくれる。
そんなところが、愛しい。
「お前さんは、どうなん?」
先程の続きだとズルい質問をする。自分は琹の望む回答をせんくせに、琹からは"好き"の二文字を奪いたくて。
こんな時ばかりは詐欺師と名高い自身の性格が嫌になる。
「好きだよ、私は雅治のこと、大好きだよ。」
足を止めて、がばりと顔を上げて。真っ直ぐと俺の顔を見つめてはっきりと言い放つ。
顔が熱い。あぁ、俺も、こんな風にはっきりと言ってやれたらいいのにな。
口を開けばプリッじゃとか、ピヨッじゃとか、意味を成さない言葉ばかりじゃ。
こんなにも、琹を愛しとるのに。それを口にするには、ばくばくと煩い心臓もわなわなと小刻みに震える唇も、自分の全身が邪魔をする。それでも表面上は、飄々と取り繕って。
せめて、俺もとそう返せたら。少しは違うかもしらんのに。
そんでも言うことを聞かない口先が溢すんは、そうか、と一言だけだった。
その素っ気なさに、とうとう琹の限界が来てしまったようでほろほろと音も無く涙が頬を伝う。両の目から一筋ずつ流れる涙が、顎先で一つになってぽたり、と落ちる。
それはとても綺麗なんじゃけど、心臓が痛い。
泣かせてしまった事実が辛かった。
「泣き止みんしゃい、琹。」
「え、あ、ごめん。泣くつもりじゃなかったんだけど。」
繋いでいた手を解いて、両手で擦って涙を拭う。そんなことしたらいかんぜよ、と琹の両手を取って止めた。そのまま琹の目元に溜まった涙を唇で掬う。俺だって、そんな
だって、琹は俺の一番で、俺の全てで。
「……愛しとうよ。」
視線を合わせて言う事は、出来んかったけど。口にしてみれば存外簡単に溢れた言葉に琹が一瞬で顔を綻ばせる。
羞恥に染まっとった心中が一瞬で喜色に変わる。琹はこれじゃから。紅くなった顔を見られんように、琹を引き寄せ抱きしめる。腕の中でクスクスと笑っとるんが感覚で分かった。
あぁ、これじゃから、琹は。
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