この恋、きみ色
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「琹先輩!」
昇降口で柱に背を預けて足元にラケットバッグを置いた赤也が私の姿を見つけて手を振ってくれる。ブンブンと大きく振り回される腕と同様にブンブンと振り回される大きな尻尾が見える気がした。勿論そんな事はあり得ないのだけど。
「待たせてごめんね。」
「全然待ってないっす!」
教室の窓から赤也の部活が終わったのを確認してから降りてきた私より、部室で着替えていた赤也の方が早かったらしい。少し彼を待たせてしまった。
いつも私達が並んで帰るのは、赤也の部活が終わった後の夕暮れ時。そう、辺りが真っ赤に燃えるように赤く染まるこの時間。
ちらり、と視線だけを隣に向けると、丁度赤也も此方を見ていたらしく目が合った。彼の瞳に夕陽の赤が滲む。いつもの、充血した赤みではなく、それは優しい紅だった。
「赤也、帰ろうか。」
「……っす。……先輩。」
手を繋いでもイイっすか、と私の耳朶をくすぐった彼の頬は、それこそ夕陽も顔負けだと言えるくらい真っ赤だ。そしてそれは、私も。
熱い頬を隠すように俯いて、視界に入った彼の左手に自分の右手を絡ませた。指を絡ませる、所謂恋人繋ぎ。赤也も左手に少し力を込めた。
とくり、と私の心臓が主張する。
きっと先程とは比較出来ない程、私の頬は赤いのだろう。そして彼の頬も。容易に想像出来てしまう。
二人で並ぶ帰り道も、彼の瞳も、私の頬も。全部全部、優しい赤色。それはきっと、彼の色。
私の家と赤也の家へと続く道の別れ道で一度足を止める。彼の手を離したく無かった。もう少し、もう少しだけでいい。夕陽は徐々に落ちてきているけれど。
「琹先輩、送るっす。」
彼も同じだったのか、にこりと笑って口にする。本当は、赤也が遅くなるからいいよ、と。また明日、と、年上らしくそう言うべきなんだろう。だけど、私の口は言うことを聞いてくれない。
「うん、お願い。」
もう少し、もう少しだけ、赤也と一緒に居たかったから。手を繋いだまま、軽く自分の家に続く道へ引く。私の家に続く道は、赤也の家へ続く道より人通りが少ない。比喩ではなく、二人きりだった。
優しい赤色に染まる道を、二人で手を繋いで歩く。それがどれ程幸せな事か。
こんな時間がずっとずっと、永遠に続けばいいのに。
「ねぇ赤也。」
私の声に視線を向ける赤也ににこりと口角を上げる。
「大好きだよ。」
繋いだ手にほんの少しだけ、力を込めた。
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