本気の恋はやめよう
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今日もまたつまらない一日だったな、と窓側の席を適当に選んで座り校庭を眺める。
誰の席かは知らないが、ここからはテニスコートがよく見えた。
「あの人……誰だっけ。」
ふと目に止まった男子生徒。男子テニス部の、確かレギュラーだった筈。さらさらと流れる長髪をキーワードに頭の中で検索をして、漸く彼が宍戸亮という名前だったことを思い出した。
あぁ、なんか。綺麗だな。
彼の黒い髪にキラキラと夕方の真っ赤な太陽が反射して私の目を眩ませる。眩しくて、眩しくて。ドキドキと心臓を高鳴らせる。
この感覚は久しぶりだった。
恋情未満の、感情。
まだ恋にはなっていない。けれど、彼を知りたいと思ってしまった。この感情が恋になってしまったとしても、きっと私に望みはない。
そう一瞬で気づいてしまう程度には、私は初心ではなかった。
一段落したのかコートを出て、タオルで豪快に汗を拭う宍戸くん。その彼の視線の先には、女の子が居た。優しい眼差しで、見守るように見つめる仕草に、彼女が好きなのだと分かってしまって。
本気になってはいけない人だ、と気がついてしまった。
本気になる前で良かった。夢中になる前で、良かった。まだこの感情は、恋では、ないから。
そう、自分に言い聞かせたのが数日前。
あの日から毎日。誰も居ない教室の、誰のものか分からない席で、窓からテニスコートを眺めるのが私の日課になってしまっていた。
眺めるだけ。それが、私の日課。
別に廊下ですれ違っても声をかけることもしない。例え彼が友達と楽しげに話していても聞き耳を立てることもしない。
ただひっそりと、誰にも彼にも知られずに遠い教室から眺めるだけ。
それで良い。
それが、良い。
私は、宍戸くんのことを知れば知るほど好きになっていくことを知っていた。眺めているだけでも彼が視線の先の女の子をどれだけ大切に思っているのか痛いほどに分かってしまうから。
彼の好きなものや好きな事、沢山知りたい事はあるけど、知ってしまえばもう、きっと、本気になってしまうから。
彼を、好きになって、しまうから。
ただ綺麗だ、と思える彼をここから眺めているだけでいい。この感情は、恋であってはいけないのだ。きっと。
宍戸くんは気づいているのだろうか。
私が毎日見ている事に。彼を想って、いることを。
ここまできても、彼への想いは本気ではないと言い張るのは
彼の視線の先の彼女を、憎いと思ってしまう。
だから、そう。この感情は、恋じゃない。
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