もう一度触れたい
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ずっと見ている人がいる。
例えば彼女のクラスが体育でグラウンドに出ている時だとか、部活中のふとした瞬間だとか。僕は彼女を目で追っていて、そして気がついた。
彼女はいつも遠目から僕たちを見ている。遠慮がちに。
他の子たちは、堂々と、寧ろ遠慮してほしいくらいに見ているのに。
地区予選が終わってからくらいだろうか、偵察に来た人達のカメラ音が増え、暫くしてそれに慣れてきた頃から同じ青学に通う生徒達のギャラリーが増え始めて、そしてその中に彼女は居た。友人に連れられて、琹、と急かすように名前を呼ばれた彼女は、友人と思われる子の少し後ろで立ち止まり、そしてこのコートを呆然と見つめていた。
だからかな。僕が惹かれたのは。
いつも友人に急かされるように連れられて、少し距離を空けた場所で僕達を見ている彼女の頬は仄かに桃色に染まっている。僕は彼女の名前しか知らないけれど、どうにもその頬に触れてしまいたかった。
友人と共に来て、友人を超える興奮した
(ねぇ君は、いつも誰を見てるの……?)
誰のテニスを見てるの?なんて。僕だったらいいのに。彼女の頬を桃色に染めているのが、彼女の胸を高鳴らせているのが、僕だったらいいのに。
らしくもなく、いつからか習慣になってしまったそれに従ってフェンスの外をぐるりと見渡す。琹ちゃんの姿を探す為。
コートに入った瞬間に見つけた彼女は練習試合を期待しているのか、いつもより嬉しそうだった。けれど、実際には残念ながら今日はただのラリーである。別に誰が悪いという訳でも無いのだけれど、少しの申し訳なさを感じて、少し強めにボールを打ち返す。少しでも琹ちゃんに楽しんで欲しかったから。
何ならつばめ返しでも打って見せようか、と構えた瞬間、英二が僕の打ったボールを返し損ねて、大きく打ち上げた。それはフェンスを超え、小さく悲鳴の上がるギャラリーすら通りすぎ、少し離れた場所に居た琹ちゃんの足元に落ちる。ハッと我に返った琹ちゃんがボールを拾うのを確認してからコートから出る。
「僕が取ってくるよ。」
彼女の元へ駆け寄る口実をくれた英二に感謝しながら彼女に駆け寄り、手を差し出す。彼女は拾ったボールを僕の手の平に乗せた。躊躇いがちに。
その瞬間に少しだけ彼女の指先が僕の掌を掠める。本当に一瞬だったのに、その指先はとても熱かった。
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