初恋の再来
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「……あの!」
彼が視線を上げる。ぱっちりとした猫目にじっと見られると、余計に心拍数が上がった気がした。
「私汐原琹って言います!昔、あなたとよくこの駅ですれ違っていて……。覚えてなかったらすみません!でも!名前を聞いてもいいですか……?」
一息で言い切ったそれは、自分でも分かるほどに早口で、彼には聞き取れなかったかもしれない。それでも、言い直す程の勇気はもう残っていなかった。
ただの初恋の人。会えると思っていなかった人。ただそれだけなのに。
どうしてここまで緊張するのか。そう考えた時、気がついてしまった。
私は、彼が好き、なのだ。
過去形なのではなく。現在進行形で。
彼のことが知りたくて、彼に私の事を覚えていてほしくて。だから、こうして失敗を顧みる事なく声を掛けた。
「……越前リョーマ。」
少しの間を置いて吐き出された言葉。
それが彼の名前だと気がつくのに少し時間がかかった。その上で、小さく噛みしめるように彼の名前を呟く。それに重なるように彼は言葉を続けた。
「アンタ琹って言うんだ。ちょっとは成長したみたいだね。」
泣き虫は治ってないみたいだけど、とそう言われて視界が潤んでいる事に気がついた。
だって、だって。まさか覚えていてくれるなんて。嬉しくて。
なんて、言いたい事は沢山あるのに何一つ言葉にならなかった。
「まぁ、アンタにしては頑張ったんじゃない?」
越前くんのその言葉の意味する所は分からないけれど、それでも私の存在を彼に認識してもらえて、こちらも彼の名前を知ることが出来た。
これは大きな一歩ではないだろうか。
ただ嬉しさを胸に立ち尽くす私の横を、彼は何も言わずに先輩に小突かれながら通り過ぎて行った。連絡先なんて聞くことは出来なかったけれど、彼の身に纏っていた制服は確かに私の転入予定の中学校のもので、期待が胸に広がっていく。
彼のクラスはどこだろう、彼の得意な科目は、嫌いな科目は。知りたいことは沢山ある。そして、それを聞く機会も。これから沢山作る事が出来る。そう考えると未来は希望に溢れていて、新生活に鼓動が跳ねた。
とりあえず、越前くんとの会話で胸が一杯になってしまってハンバーガーなんてお腹に入りそうにないから、と何も買わずに店の外へ。そしてそのまま、息を吸い込んだ。
「ただいま、東京!おかえり、初恋!」
残りの中学生活は、薔薇色になりそうだ、と浮き立つ心に想いを馳せた。
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