好きの反対、の反対
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「琹ちゃん!」
呼ばれた名前に振り返る。くるんとした髪に嬉しそうに上がる口角。猫のようなつり目が特徴の、私の、彼氏。
「どうしたの?英二。」
お返しとばかりにこちらも口元を緩め名前を呼ぶと、彼は急に私との距離を詰めて抱きしめる。私の首筋にすりすりと頬を寄せる様は
「琹ちゃん、大好きだにゃ!」
ぴたり、と捩っていた身体の動きが止まる。一気に体温が上がったのは、英二の体温が私に移ったからではなくて。恥ずかしさ、だ。
ばくばくと破裂しそうな程に波打つ心音が彼にも伝わっているのか、彼はにゃははと楽しそうに声を上げて笑う。ずるい。
自分の顔に熱が集まっているのがよく分かる。そんな私に追い打ちをかけるように英二が口を開いた。
「琹ちゃんは?」
私の頭上から見下ろすように視線を落として、でもその瞳は三日月の形に細められていて。喜色を滲ませて笑みを浮かべた彼が望んでいる言葉は分かっていた。
だけどそれを素直に口にするのはなんだか癪に触る。だって、私だけが照れているようで。英二が好きと言われる事に慣れていると思えてしまって。
「好き……の、反対。」
だからか、口から出たのは少しだけ本心を滲ませた、素直じゃない言葉。その言葉に、先程まで笑みを浮かべていた彼の表情がしゅんと沈む。なんなら彼の特徴の一つである、耳の辺りで外に跳ねた髪の毛ですらしょんぼりとしているように見えるくらいだ。
それでも私を離さない英二に一種の呆れさえ生まれてくるが、それよりも、してやったりという方が大きかった。いつも振り回されてるんだからこのくらい。
でも。しょんぼりと落ち込んでいる筈なのに私の背中に回された腕に込もる力はとても強くて。もしかして、英二を傷つけてしまったのではないかと不安が胸中に広がる。自分で勝手に捻じ曲がった言葉を吐いておいて、自業自得なのだけど。罪悪感が思考を埋めて、ばくばくと動悸が荒くなる。
「……の、反対。」
小さく震える声で搾り出すように紡いだ言葉に、英二ががばりと勢い良く顔を上げる。その表情はにこやかで、涙の一つも滲んでいない。あぁ、もう!私の罪悪感を返して!!と叫びだしたくなる程に、彼は何も変わっていなかったのだ。
「の反対!!」
悔しくて、罪悪感を抱いていた自分が馬鹿らしくて、両腕を突っ張って英二から身体を引き剥がす。困惑しているように感じるが、もう知らない。くるりと方向転換して、間髪入れずに歩みを進める。
もう絶対、素直に好きなんて言ってやんないんだから!!
怒っているフリをしながら、それでも頬は嬉しそうに緩んでいた。
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