初恋の再来
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ガヤガヤと騒めく青春台駅。数年ぶりの光景は何一つ変わっていなかった。
父親の転勤で引っ越しをしたのが数年前、そして今回またもや父親の転勤で東京に戻って来たのだ。
「ただいま!東京!」
前に来た時よりも高くなった視線で見渡すと、一人の男の子を思い出した。昔、この駅前で何度かすれ違ったことがある程度の男の子。
顔は覚えていない。覚えているのはいつも被っていた帽子と、無愛想な表情だけ。
年の頃は同じくらいか、2、3歳下くらいのもので、なんだかラフな着こなしをしたお父さんらしき人に手を引かれていた。
「……懐かしいなぁ。」
ここだけの話、私は彼のことが好きだった。
すれ違うだけの男の子だったが、それでも、幼心に惹かれるものがあって、確かに彼が好きだった。
けれど、暫くして彼は突然この駅に来なくなってしまったのだ。何度来てもどの時間に来ても、二度とすれ違う事はなくて。
今ならきっと彼も引っ越してしまったのだろうと諦めがついただろう。けれど、幼かったあの頃は会えなくなったことがただひたすらに悲しくて、初恋なんてこんなものだと子供らしく大きな声で泣き喚いて親を困らせたものである。
ふふ、と思わず笑みが溢れた。
懐かしさと、愛しさと。あぁ、彼だけでなく、あたしはこの駅も好きだったのだなと今更にして気がついた。これで彼が居たら完璧なのに。
「お母さん、私ちょっとこの辺歩いてから帰るね。」
もう少しだけ、この思い出に浸っていたくてふらふらと駅前を歩く。
あぁ、待ち合わせにぴったりのあのシンボルも変わっていない。けれど、その近くにあったお洒落なカフェは真新しいパン屋さんに変わっている。
懐かしさと、目新しい発見と。色々な発見があって存外楽しいものだ。
「あ、このファストフード、こんなとこに出来たんだ。」
そう言ってチラリと入り口から中を伺う。目に優しくない赤と黄色の派手な色遣いに、学生には良心的な値段の商品。数年前にはまだここにはなかったけれど、何処かでよく見るチェーン店だった。
匂いにつられてぐーっとお腹が空腹を訴える。
少し腹拵えでもと店内に入り空席を探すと、見つけてしまった。
思い出の中でも色褪せることのないあの帽子。あの表情。
当たり前のように年齢を重ねてはいるが、確かに彼だと言いきれる程、何も変わってはいない。
とくり、と心臓が主張する。
嘘、なんで。
もう二度と会えないと思っていたのに。
急に頬が熱くなる。
あぁ、彼に名前を聞かなければ、とこちらを覚えているかとか、むしろ私に気づいていなかったかもしれないだとか。そんな事はどうでも良くて。ただ今ここで彼を呼び止めなければ後悔するという確信だけがあったから。
注文するよりも先に、彼の座っているテーブルまで小走りで近寄る。彼の先輩らしき人に興味深々といった視線を投げられるが気にしている暇はない。
息が切れる程走ったわけではない。動悸が激しくなる程運動したわけでもない。なのに、息を吸うのが苦しくて、ドキドキと心臓の音がうるさい。指先が震える。
これが緊張だと気がつく前に、言わなければ。
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