その少年、少女につき。
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寒い。
ひやりとした、風とすら呼べない空気が頬を撫でる感触で目が覚めた。
「……寒い。」
無意識に紡いだ自分の声に、暖を取ることだけに集中していた思考が一瞬にして覚醒していく。
おかしい、おかしすぎる。今は、何月だ。8月だ。それなのに、寒い、だなんて。
慌てて大の字に投げ出されていた上体を起こす。じりじりと照り付ける太陽を薄く積もった新雪が反射して眩しい。地面についた手から体温が奪われる。すりすりと手を擦り合わせて、かじかんだ指先の感覚を取り戻そうとしていた。
何故、何故。こんな所で。
そればかりがぐるぐると回る。
ぐるぐる、ぐるぐる……。
何度も何度も疑問を巡らせ、気付く。
前にも、似たようなことがあった。
真反対の季節、寝ていた場所。
全て、既視感がある。
あたしは誰だ。汐原琹だ。
年は。15。
どうしてこうなった。知るわけがない。あぁだめだ。堂々巡りで進展がない。
ふっと一度息を吐いて周りを見渡した。何の変哲もない住宅街。その中で見つけた、見覚えのある一軒家。あたしの、家。
不安に埋め尽くされた胸の中にほんの少しの希望が見えて、慌てて立ち上がり表札へと顔を近づける。これでもかというほど顔を近づけた。あと数センチで表札とキスが出来そうだ。
そんなくだらないことが頭に浮かんだのは、おそらくこの表札に書かれた文字が"汐原"だったからだろう。少なくとも家なき子になることは避けられたのだ。これで同姓の他人の家だったどうしようかと疑う前に、震える指でインターホンを押した。
ピンポンと間の抜けた音が鳴った後、バタバタと慌ただしい足音がしてドアが開く。
どうか、どうか。
あたしの知っている人、我儘を言うならあたしの家族であってほしい。だらりとだらしなく下げた腕が震える。どうか、どうか!
「……あら?」
ガチャリとした音にハッとして顔を上げると、同時に安堵感が胸を占めた。
「琹じゃないの。」
聞き慣れたはずの母の声がどこか遠くに聞こえてしまう。そんなあたしの心境なんて露知らず、わざわざ自宅のインターホンを鳴らしたあたしにぶつぶつと文句を並べながらも母はあたしを家の中へと促した。
あたしもそれに従って家の中へと入る。
入ってすぐの玄関には、大きな鏡が扉に張り付けられた収納スペースがあった。
配置すら変わっていないという事実に、温度は何かしらの異常気象だと多少無理やりな説明づけが出来ると思った、のに。
鏡に映った自分を見て息を吞んだ。
「……おん、な……?」