その少女、少年につき雨傘
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「……止むわけ、ないよね。」
静かに肩を落とす。昇降口に立ったあたしの行く手を阻むのは、突如降り始めた、割と大降りの雨だった。傘は無い。だって天気予報では雨が降るなんていってなかったもの、なんて言い訳しても状況が変わるわけもない。
濡れて帰るしかないのか、なんて結論には随分と前から何度か行き着いているが実行には至っていなかった。もう少し、もう少し待ってみようと自分の心がでもでもだってと邪魔をするのだ。そんな所が女の子だな、と感じられて嫌いではない。けれど、今回ばかりは潔く雨の中へ踏み出せる男らしさが欲しかった。そうでなければ帰れない。
「おい、汐原。」
立ち往生してどれ程時間が経っただろうか、背後から声が掛かる。最近はあまり聞くことの無かった、けれど忘れることは出来ない声。跡部だった。
「……何。」
じとじととした不快な湿気に加わった新たな不快感に、遠慮なくじとっと不満を滲ませた視線でもって睨みつける。彼には効果は無かったようだ。序でに、跡部の後ろに控えている樺地にも効果は無さそうだった。
「乗っていくか。」
何でもないような口ぶりで、あたしに問いかける。どうやら跡部の家の人が車で迎えに来るらしい。それに同乗させてもらえるのなら、本来なら有り難い話。二つ返事でお願いするところだが。
「……いい。一人で帰る。」
口を
相変わらず大して高くもないプライドが邪魔をする。今回のこれは、別に男扱いを受けた訳でも蔑ろにされた訳でもないのだから素直に受け取っておけばいいのに。
何故か、素直にこの男の言葉に乗りたくなんてなかった。
案の定、跡部は呆れたように溜息を溢す。
「……樺地。」
「ウス。」
あたしの言葉に何を思ったのか、跡部は側に控える樺地にいつもの様に無言で指示を出す。樺地は自身の鞄から黒い、折り畳み傘を取り出した。
「……これを、使ってください。」
そう言いながら差し出してくるが、これを受け取ってしまえば樺地の傘は無くなってしまうのでは、と躊躇する。迷った挙句、遠慮する方を選んだ。
「……いいよ、あたしはこのまま帰るから。じゃあね。」
掌で樺地の差し出した傘を押しやって、学校の外へ足を踏み出す。不思議な事に、さっきまで迷っていたことが嘘の様に躊躇いなく足を踏み出せた。
バタバタと頭や肩や鞄を雨が打ち付ける。一瞬で濡れ鼠になったが、昇降口からはまだ数メートルしか離れていなかった。
走って帰るか、と気合を入れたところでばさっと無理やりに背後から大きな傘で覆われる。
「……おい、命令だ。それ使って帰れ。」
背後から聞こえた声は、跡部のものだった。先程と違い、折り畳みじゃない傘は跡部のものらしい。