その少女、少年につき金髪
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手が負傷したと言うには、あまり重傷ではなかったけれど、それでもマネージャー業には少なからず支障は出ていた。
あたしには関係のないことでも跡部からすれば何か思うところがあるらしく、暫くは放課後の部活に出ることもない。一週間程の休みを手に入れたところで何もすることはないけれど、まだマネージャーになってあまり時間が経っていない事に気付いて溜め息を吐いた。不信感を煽るだけだ、と。これ以上目立たない為にも、出来るだけ平和にいきたいのだけど。
「あ、そういえば。」
考えたくもないことを頭の隅に追いやると、一つやらなければいけないことを思い出した。
勿論跡部からの命令である。
芥川慈郎を探せ、と。
特徴は金色でふわふわとした髪、それから寝ている可能性が高いとのことだった。まぁ、ほぼ100%あたしの知る芥川慈郎だろう。
あたしのせいで帰り辛くなった家に少しでも長居をしないための良い口実ができた、と珍しくニコニコと上機嫌で芥川を探す。馬鹿みたいに広い校庭を隅から探す気も起きず、フラフラと日の当たる場所へ適当に足を運んだ。
跡部からの命令は、見つからなければそれでいいという酷く曖昧なものだったから何も問題はない。あたしの、この、探索と言えるのか疑問な散歩の合間に芥川が見つかれば、くらいの認識だ。
ぽかぽかと言うよりはジリジリと肌を刺すような日光に、思わず鼻歌を歌いながら辺りに視線をやる。夏は、嫌いじゃない。
湿度の高い風も、刺すような日光も。
湧き上がる、歓声も。
嫌いじゃ、ない。
もしも、あたしが女のままでここに立っていたのなら、きっと、いつもと変わらない夏を楽しんでいたのだろう。テニス部の全国大会という、ほんの少しだけいつもと違うイベントに想いを馳せて。
もしも、の話だ。
そう、もしもの話なのだ。悲しい事に。
鼻歌はいつしか溜め息に変わってしまっていた。同時に浮ついていた足も止まる。
じわりと浮いてくる涙にも慣れてしまった。
「……帰りたい。」
ぐずりと涙交じりの声は酷く情けない。
その情けない声を拾ったかのように視界の隅で何かがごそりと動く。夏の太陽によって、色濃く作られた木陰にそれは居た。思わず目元に溜まっていた涙を少々乱暴に拭って駆け寄る。
あぁ、居た。
金色が。
綺麗な、金色が。
木陰で寝息を立てているにも関わらず、細い糸のような髪は日の光をよく透してキラキラとしていた。思わず、ほぅと息が漏れる。
寝ている彼の側に膝をついて、手を伸ばした。触れてみたいと、ほぼ無意識に髪に伸ばした手は躊躇し、結局彼の肩へ向かう。
きっと、柔らかいのだろう髪から視線を外したのに特に意味はなかった。綺麗だ、と心奪われたのもきっと金髪が珍しいと思ったからだ。
そうでなければいけない。
自分から彼らに好意を寄せるなんて。そんなの、あまりにも自分勝手だ。
「芥川、起きて。」
緩く肩を揺らすも、起きる気配はまるでない。
なんとなく分かってはいたけれど、芥川を探してこいなんて普段のマネージャー業よりも難易度が高いのではないかと思う。
どうせ、見つかろうが見つからなかろうがどちらでもいいと言われた仕事だ。無理に起こさなくてもあたしの責任にはならないだろう。
あたしは彼の肩を揺さぶっていた手を止めた。