似て非なるモノ
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日もまた、二オーを求めてリッカイの塀を登るといつもの場所に二オーは居た。二オーの背中にふにーと鳴き声を上げる。いつもなら何じゃ、と頭の一つでも撫でてくれるが、今日の二オーはこちらを見向きもしない。それが不満でしなやかな身体を見せ付けるようにニオーの目の前に飛び降りると、ニオーはおや、と声を上げた。
はて。
その声はニオーの声ではない。
太陽を透かすその髪は私の本来の毛並みと同じ色で、ぴょんと跳ねる尻尾もいつもと同じだ。それなのに、ニオーとは違う。
その人間は自身の髪に手を乗せると、指先でつむじを摘まんで白い髪を持ち上げた。びゃっと一歩飛び退く。白い髪の下から覗くのは明るい茶色だった。
「驚かせてしまいましたね。すみません。」
茶色い毛並みの人間は申し訳なさそうに声を上げると、目元を隠すように銀色の細いワイヤーで小さなガラスを囲った、いつぞやにニオーがメガネと言っていたような気のする物を身に付けた。その姿は見たことがある。
ニオーだ。
いつぞやのニオーが目の前の人間と同じ格好をしていた。
白い毛並みを茶色で隠しメガネを掛け、首下のネクタイを少しきつめに結うと、ニヤリと笑ってどうじゃ、と笑っていた気がする。そういえば、その声と目の前の人間の声はとても似ていた。
その時のニオーを細かく思い返して、目の前の人間、ニオーがヤギューと呼んでいた人間と間違い探しをする。緩んでいたネクタイを結い直してしまった今では、違いなぞ見つからない。
「少し失礼しますね。」
ヤギューはそう私に告げて、私の前足の下に両手を差し込んだ。そのまま持ち上げる。所謂、抱っこされている状況に、私の視界にはヤギューの顔しか写らない。けれど、そこで漸くニオーとの違いを見つけた。
みゃーと声を上げて、ヤギューの口元を示してやろうとぺしぺしと右の前足に力を込める。けれどヤギューの腕の長さと私の前足の長さでは差があり過ぎて届かなかった。況してや私は今、ヤギューに抱き上げられている。前足の下に差し込まれた手の所為で上手く動かすことが出来ない。
折角私が親切で教えてやろうというのに。
ヤギューは私がパタパタと身動ぎしたからだろうか、私を地面に下ろした。違うのに。私が示したかったのは、ヤギューの格好をしたニオーには無かった、口元の黒い点。よく似た二人の異なる点だった。
あぁ、人間に言葉が伝わらないというのは存外遣り切れないものだ、とふにゃあと鳴き声を上げた。