case4:呼び出されない女
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ふと疑問に思う時がある。
「手塚。」
「何だ。」
目の前の眼鏡を掛けた生徒会長について、だ。
私は生徒会の副会長で、自分で言うのもなんだが、目の前の男と割と仲が良い。一方的な勘違いでなければ。
そして、目の前の男はこの強豪テニス部を有する青学のテニス部部長だ。つまりは注目の的。人気者。
それなのに、そんな彼と仲の良い私は一度も他の女子生徒から呼び出しをされた事はない。嫉妬心に晒された事もだ。
他のテニス部員と仲の良い子達は何かしらの被害に遭っているのに。どうして私だけ。
「もしかして手塚ってモテないの?」
「何を言っている。」
寄せられた眉の所為で、眼鏡の奥の瞳に不快感が滲んでいる。うん、別に顔は悪くない。ただちょっと、表情筋が固いだけで。
性格も、まぁ、ちょっと取っつきにくい所はあるけれど、誠実で良い奴だと思う。人気のあるテニス部で部長を務めているし、後輩やチームメイトの信頼も厚い。成績も良いし、今みたいに重い荷物は全部持ってくれるくらいの甲斐性は持ち合わせている。文句をつける所なんて、本当にちょっと頭と表情が固い所くらいじゃなかろうか、とちらりと視線を隣の手塚に向けると、急に彼の腕に抱えられていた教材が派手な音を立てて転がっていった。
「汐原……っ!」
「うぇ!?」
腕を掴まれて引かれる。
はっとして、勢いを付けて手塚から視線を外し進行方向へ向けると、そこには下階に繋がる階段がある。そこの最上段の踊り場まで引き上げられたのだ。私は。
つまり、それは、私が階段を踏み外していたという事に他ならない。手塚が腕を引いてくれていなかったらと思うと、ひゅんと喉が鳴った。
「怪我は。」
「無い。大丈夫。ありがとう。」
「そうか。」
私の安否を確認したかと思うと、直ぐに手塚は足元に散らばった教材を拾い始める。私もそれに倣った。場所が場所なだけに下まで転がり落ちてしまっている物もある。申し訳ない。
「それで、何を考えていた?」
「え?」
「何か考え事をしていたから足元が疎かになったのではないのか。」
あぁ、それね、とそこで口を閉ざす。どう答えて良いものか。
まさか手塚のモテる要素を上げていたなんて口が裂けても言えないし、言ったところで返ってくるのは良いところで溜息だろう。
「……私もいつか呼び出されるのかなって思って。」
呼び出し、とその単語に手塚の眉が潜められる。自分達と親しいが故に友人が誹謗中傷に晒されるというのは気持ちの良いものではないだろう。呼び出す側も、きっとそれは分かっている。分かっているからこそ当事者に隠していないのだ。貴方が私を見てくれるなら他人は傷つけませんよ、とそんなアピールの為に。
それが彼らに伝わっていないのは、立場の違いからなのだろうか。だからこそ、私は呼び出されたいのだ。私が手塚との交渉の材料になり得るだけの信頼を築いていると、周囲に思って欲しいから。
下の階に落ちた物を拾ってくると階段を駆け下りる。丁度大石と仲の良い女子が呼び出されている所だった。あぁ、何て羨ましい。
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