case2:見分けられない女
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生徒会室の隣の倉庫に、担任から半ば押し付けられた教材を運ぶためにえっちらおっちらと向かっていた。大した重みは無いのだが、如何せん、デカい。持ち難さと視界の悪さが相まって、ふらふらとした歩みになっていた。
「危ないですよ、汐原さん。」
とん、と抱えていた荷物の先が何かに当たったかと思うと、教材で遮られた視界の先に見覚えのある人物が立っていた。
綺麗な明るめの茶髪を丁寧に流し、シャープな眼鏡のブリッジをスラリとした指先で押し上げるのは柳生くんだ。
柳生くんはあたしのふらふらとした足取りを窘め、抱えていた教材へと腕を伸ばす。彼の性格からして手伝ってくれるのだろう。あたしは軽く身を捩ってその腕を避けた。
「手伝ってくれなくても大丈夫だよ。これ、意外と軽いから。」
そう思って、先回りして断りを入れ、お礼を付け加えた。のに。
「お前さん、自意識過剰じゃ。」
「は?……はぁ?!!!」
返って来たのは、
確かに、まだ手伝いをしてくれると言ってくれた訳ではないのに、その手伝いを断るのは多少自意識過剰なのは認める。けれどそれは、意外と頑固で折れてくれない柳生くんに口を開かせない為であって、仁王に文句を言われる為ではない!
「ていうか、何で仁王なのよ。」
「お前さんが勝手に勘違いしたんじゃ。」
もう一度、今度は怪訝な表情を浮かべ、は?と投げる。これが仁王の格好をした彼を柳生くんだと言ったなら、仁王の言う事も分かるが、今現在、柳生くんの格好をしているのだから普通はそれが仁王だなんて考えないだろう。理不尽にも程がある。
あたしは仁王の相手に疲れて溜息を一つ溢した。
「……そこ、どいてよ。」
「嫌じゃ、と言ったら?」
ニタリ、と歪める口元をよく見れば、仁王の特徴である黒子が残っていた。変装については完璧主義者である仁王が自身のチャームポイントを残したままでいるなんて珍しい事もあったもんだ。よく見ると少し猫背気味だし、コイツ、本当は柳生くんに変装するつもりなんてないんじゃないだろうか。
「仁王。」
「なんじゃ。」
正直仁王が柳生くんに変装してるかなんて分かんないし、実際見た事は無いが柳生くんが仁王に変装してても分からないだろう。それでもさ。
「見分けて欲しいなら素直に言えばいいのに。」
見分ける努力くらいはしてやるよ、と残して仁王の横を通り過ぎる。態とらしく痕跡を残さなくても、仁王がただ素直に、構って欲しいと言えばいいのだ。そうすればあたしだって。
すれ違い様に横目に見えた仁王の頬は赤かった。
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