偶然がくれた恋だった
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ざわざわと賑わう駅前。聞き慣れた標準語の他にも、関西弁や東北弁だろうか、聞き慣れない言葉が耳に入る。そんな中私は、声を上げた。
「光ー!どこー?」
大阪観光に来て、駅に着いた瞬間トイレに行くと言って消えた兄、光。年が近いからか、昔からお兄ちゃんと呼んだ事は無かった。別に仲が悪いとかそんな事はないけれど、高校生にもなって勝手に迷子になるような兄、お兄ちゃんと呼ぶ気にはなれない。
「ねー!ひーかーるー!?」
段々と大きくなる声に苛立ちが滲んでくる。何度も彼の持っているスマホに連絡を試みているが、通話音が鳴るばかりで、光が出ることは無かった。あぁ、もう。
もう一度、兄の名前を口にした時、アンタ誰なんすか、と頭上から関西訛りの声が聞こえた。
視線を持ち上げると黒い髪にオリンピックカラーのピアスをつけた男の子。私と同じ中学生くらいだろうか。もしかしたら高校生かもしれない。兎に角、私の知らない人だった。
「えっ、と……もしかして、光さんですか?」
私の問いかけに、彼はアンタが呼んだんやないか、と答えた。う、わー。やらかした。もしかしなくても人違いだ。
彼の言葉は、関西弁だからだろうか、キツく聞こえて萎縮してしまう。あぁ、でも悪いのは此方なのだから謝らなければ。
「ごめんなさい、兄を探していて。偶然貴方と同じ名前だったみたいで。」
もう一度頭を下げて立ち去ろうとするけれど、それは叶わなかった。
光さんが私の手首を掴み、そのまま歩き出した所為だ。何も言わず、ただ少し乱暴に私の手を引いて人混みを出る。少しして聞き慣れた声が耳に入った。
「琹ー!何処だー!」
口元に手を当て、あたしの名前を大声で呼ぶ。先程自分も同じ事をしていたが、これ、される方は半端なく恥ずかしいなと赤面する。それで確信を得たのだろう。光さんは口を開いた。
「アレやろ?」
「あ、はい。そうです。……あの、どうしてアレが兄だと分かったんですか?」
光さんが私の名前を知っていたなら、その名前を呼んでいるあの人が私の兄だと分かるだろうが、初対面の彼が私の名前を知っている筈もない。兄が呼んでいる名前が私の物かなんて確認のしようがないのだから。それなのに光さんは迷い無くここまで連れてきてくれた。彼の中では何か思うところがあったのだろう。それが知りたかったのに。
「別に、似とると思うただけっすわ。ほな、さいなら。琹さん。」
彼はひらりと手を振って背を向けた。そのままヘッドフォンをつけて世界の音を遮断する。その瞬間にきゅっと胃の辺りが締め付けられた。
ドキドキと頬が紅潮して、彼の後ろ姿に釘付けになる。私はこの感覚を知っていた。
もしもこの感情が、恋だというのなら。この感情はなんて素敵な偶然なのだろう。
(この偶然は、きっと運命。……なんてね。)
未だに私の名前呼び続ける兄の元へ駆け寄る。態と大きな声で光と呼んでやった。
相変わらずお兄ちゃんと慕う気にはなれないが、まぁ兄の名前くらいは感謝してやらない事はない。
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