きっと夢中にさせるから
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「あんた達、バカみたい。」
日が沈み、もう少しで暗い空が辺りを包み込むだろう時間帯。部活終わりに校門をくぐると、待ち伏せをしていたのだろうか、一人の女子が険しい顔でそう言った。
その場には俺以外のテニス部員も居たから、明確に誰に言ったのかは分からない。けれどカチリと噛み合った視線が、俺に言っているのではないかと思わせていた。
強くこちらを睨みつけるように向けられる視線には、確かに憎悪が含まれている。その理由なんて俺には分からない。
彼女とは初対面の筈だ。
「悪いけど、名前も知らない君に言われる筋合いはないな。」
俺の言葉に彼女は踵を返して帰路に着いた。俺達に背を向ける一瞬ですら、最後まで視線は俺に向けられていたものだから、興味が湧くのも仕方ない。
言葉少なに、蓮二、と促すと蓮二は慣れた指先でノートを開きするすると言葉を紡いだ。
「汐原琹。三年E組。成績、運動神経、芸術面においてどれも平均的。特に目立つ特徴は無いが、B組に親友がいるらしい。」
「余計に分からないな。」
俺達の何が彼女の逆鱗に触れたのか。考えてみても、やはり心当たりは浮かばなかった。
取り敢えずこのまま校門に立ち尽くしていても仕方がない。
俺達も汐原さんがそうしたように、沈む日を背にして歩みを進める。暫く進むと各々の最寄りのバス停だったり、そのまま徒歩で帰るものだったりで徐々に人数が減っていく。
かく言う俺も、数人残る集団に別れを告げて道を進んだ。
「汐原さんか。」
一人で家路を進むと、やはり彼女の存在が脳裏をちらつく。まだ弦一郎達と一緒に居た時はそうでもなかったのに。
それはきっと、俺達にあんな事を言う女子が初めてだったからだろう。
自分で言うのもなんだが、俺達は立海大の中でも、常勝を誇るテニス部のレギュラーだ。先生方からの配慮こそないが、生徒からは少なからず羨望を抱かれている。そんな相手に態々文句を投げてくる人間なんて、男女問わず居るはずがない。
つまりは、正直なところ、腹が立ったのだ。
例えば、彼女が俺達の誰かと知り合いで、俺達が粗相をしたのなら、それはしかるべき謝罪をするべきだろうし、彼女の蔑みにも納得がいく。けれど実際にはそうではない。
俺達の中に彼女を知っている部員はおらず、だから、当たり前のように彼女に蔑まれるような心当たりのある者もいない。理不尽だ。
「明日、詳しく聞いてみよう。」
汐原さんにも何かしら思う事はあるのだろうから、何も知りもせずこちらの事情を押し付けるわけにもいかない。仮にも俺はテニス部の部長だ。
ひとまずは考える事を放棄して、俺は自宅の扉を潜った。
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