残念ながらべた惚れ
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「雅治はたまに、よく分かんないね。」
琹がそう言って困ったように笑う。そんなん、可愛いと思うに決まっとるじゃろ。
やれやれと肩を落としつつ、呆れたようにため息を吐いても琹は一度も別れるなんて言ったことがない。
優しくて、泣き虫で。そんな琹を愛しとる。ただ、口に出せんだけで。
琹が側に居る。それだけで他は何もいらんって、本当はこの世の何より愛しとるって口に出せたらええんじゃけど。
どうにも照れ臭さが先行して、誤魔化すようにプリッと溢す。その言葉に琹はいつものように眉尻を下げた。
困ったような、悲しいような、そんな顔。
そんな顔をさせとるんが俺のせいだって事も、俺が一言本音を言えばそれを払拭してやれる事も分かっとるんじゃけど。
……分かっとるんじゃけど、どうにもそれは言葉になりそうにない。
琹はほう、と息をついて繋いだ手を辿る。手から肘、肘から肩、そんで俺の顔。
そのじっくりと辿る視線に顔を逸らしたくなる気持ちを必死で抑えて、琹と目を合わせる。琹はにこりと笑った。
そのまま言葉に迷ったようにはくはくと開閉される唇を無意識に凝視する。
塞いでしまいたい。そんな衝動を指先に力を込めることでやり過ごす。琹は少し痛かったかもしれん。
「……ねぇ、雅治は私のこと、好き?」
いつものように、名残惜しさを前面に押し出してゆったりとなぞっていた帰路の真ん中程で琹は立ち止まる。口にした質問は愚問だった。
「そうじゃのう……当ててみんしゃい。」
愚問だと、そうは思っとっても俺の回答は素直じゃない。琹の視線は俺の顔から足先へと落ちた。
不安気に揺れる、泣きそう、と思ったが琹は下唇を噛んで耐えとった。
いじらしい。そんで愛しい。
琹には好きか、と問われたが。
残念ながら好きじゃない。それを返すと琹が折角唇を噛み締めて耐えとるんが無駄になりそうじゃ。だから言わん。
「……ねぇ、雅治はにとって私って、何?」
少し震える声が切ない。
こんなにも不安にさせとる自分に腹が立つ。だって、俺は。
「……ピヨッ。」
少し言葉に迷って、結局大した言葉は出んかった。誤魔化すように止まっていた足を動かすと必然的に琹も付いてくる。
こんな俺でも繋がれた手を振り払わない琹に、ドキドキと心臓を高鳴らせた。
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