流れない涙は
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一人で立ち尽くす生徒会室は酷く、広い。
ここに呼び出されるのも今日で最後なんだと
つい先程まではここにもう一人佇んでいた。
上から私を見下ろすように、それなのにその瞳が酷く優しい、そんな彼がここに居た。
景吾に呼び出されるのは随分と久しぶりで。あぁ、そうか。だからか。
側にいるのが当たり前だと思っていた。
私の隣に並ぶ景吾を時折見つめて、好きだよ、と口にするのが当たり前だと思っていた。けれど実際はどうだっただろうか。
私は生徒会室でも景吾専用とされているソファに腰を下ろす。見た目通り柔らかなそれは、けれどしっかりと私の身体を包み込むように抱く。私もこのソファはお気に入りだった。
「もう、このソファに座る事もないのか。」
実感が湧かない。
先程まで目の前に居た、手を伸ばせば触れられる距離に立っていた景吾が口にしたのは、別れを告げる言葉だった。
終わりを告げたその言葉は確かに景吾の口から漏れた筈だ。感情を含まないそれに私の時間は止められた。
あぁ、景吾の言葉に私は何と答えたのだっけ。
抵抗無く受け入れたのか、別れたくないと駄々を捏ねたのか。酷く記憶は曖昧でふわふわとしていた。まるで私達の始まりの日と同じような感覚なのに、じわじわと
「好きだよ、景吾。……大好き。」
……本当に?
そうだ、これはきっと夢だ。
これは夢で、明日にはまた景吾の隣に並べる筈。きっとそうだ。
「あぁ、だめだ。」
私は震える指先を無理矢理押さえ込んだ。
「これは夢じゃない。」
確かに私は景吾に別れを告げられた。
それに対して私がどう対応したのかは曖昧だが、最終的に彼の言葉を受け入れた筈だ。だとしたら、もう彼に縋る事は許されていない。それでも。
「どうして泣けないんだろう、私。」
私にとって景吾の存在はその程度だったのだろうか。別れを告げられてすっぱりと諦められてしまうような、そんな当たり障りの無い存在だったのだろうか。
「そんな事ない。」
例えば試験週間の時、私の勉強を見てくれていたのは景吾だったし、帰りが遅くなった時、必ず送ってくれたのは景吾だった。
いつだって私の側に居て、いつだって私に世話を焼いてくれた。優しくて、自信家で、お金持ちだからだろうか、庶民的な事に疎くて。でも興味津々で。
あぁ、私、景吾が居ないと生きていけない。
そんな馬鹿らしい考えが頭を過る程には大切に思っていたのに。たった一つも涙を流す事が出来ない。
だって、こんな事実、認められないから。……認めたくないから。
1/1ページ