理屈じゃないの
名前
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「そっかあ~名前も女だったんだね~」
「は?なんなの……その言い方、」
なんでそんなに私に突っかかって来るんだろうか。
私は小吉に好きな人ができても嫌だなぁって思うぐらいで、そんな煽るような事を言ったことは今まで1度も無かったのに。どちらかと言えば応援してきたし、手助けだってしてきた。
「なんでそんなに、不機嫌なの」
「はあ?不機嫌じゃないけど」
「不機嫌じゃん。いつもはそんな事言わないし、」
「いつもってなんだよ。お前ってさぁ、俺の幼馴染だからって何でも知ってるって顔してるけど、違うだろ?」
「は、」
本当に不機嫌そうな顔で吐き捨てられた。
今までこんな扱いをうけたことはなかったから口からポロッと言葉が抜け落ちたけど、小吉はそれすらも憎々しげに睨んで、話を続けた。
「なんでもかんでも知ってると思ったら大間違いだろって言ってんの。何様のつもりだよお前」
「……。」
「そのくせ大事な事は何一つ言わずに溜め込んで、結局俺に責任転嫁するのも辞めろよ。いい加減うっざいし」
「なに、それ」
「今も昔も俺の面倒見てる振りして俺に依存してただけでしょ。ってことはようやく俺は自由になれんだね。あー、良かった。」
「なんなの、その言い方……!」
いい加減我慢の限界だった。何が悲しくて悩んでる最中こんな事を言われなきゃいけないのか分からなかった。優しくして欲しいとまでは言わないけど、それでも少しぐらいは私の気持ちを汲み取って欲しかった。
そもそも小吉に責任転嫁してるつもりも毛頭なかったし、依存と言うならそれは私だけじゃなくて小吉もそうなのに、どうしてこんなに一方的に責められるのか分からなかった。
珍しく目の前が涙で歪んでいくのが、なんだか不思議だった。泣きたくないと言う気持ちと、もうここまで言われたんだからいいんじゃないかと言う気持ちがせめぎあい自分でも自分のことがよく分からなかった。
ただ静かに涙を流す私を見た小吉は先程と同じように冷たい目をしていて、いてもたってもいられず目線を下に向けた。
泣いたら負けだ。そう思って堪えようとすればするほど馬鹿みたいに涙は溢れてきて止まらない。
「っ、ふぅ……う、」
「……泣けば済むと思ってんの?」
「ちが、う」
「本当女の子って得だよね。泣けば大抵のことは許されちゃうんだからさ」
冷たい声色にもう顔を上げることも出来なかった。ただ、声を押し殺して泣く。
少しずつ息を整えて涙で濡れた顔をゴシゴシと袖で吹いて小吉を睨みつける。
「そんな、屁理屈しか言えないわけ?」
「なに急に好戦的になっちゃって。大体屁理屈も理屈でしょ」
「筋が通ってないんだってば、」
「なんで俺が筋通さなきゃいけないわけ?通したいなら勝手にお前が通せばいいじゃん。皆同じ土俵で戦ってると思ったら大間違いだろ」
「……もういい!小吉なんて、王馬なんてもう知らない!」
「あっそ、お好きにどうぞ」
そもそも、小吉に口で勝てるわけなかったのになんで口で挑んだのだろう。あっさりと言い負かされて悔しい思いをするだけだった。
もう一度小吉と視線が合う。……やっぱり冷たい目だ。でも、もういい。私は小吉の面倒をもう見なくてもいいんだから。
屁理屈ばっか言って飽き性でクズ野郎な奴に依存する必要なんて、もう無いんだ。
そのまま小吉の横を歩いて去っていく。後ろは振り返らない。どうせこっちの事なんて見ていないだろうから。
そのまま適当にフラフラと歩き続けていると後ろから声をかけられた。
「あっ、名字さ、」
その声の主を私は知っている。聞こえてすぐ反応する形で振り向けば微笑んでいた表情から一変して顔色を変えた。
「どうしたの!?」
私の顔を見るなり慌てふためく最原くんはポケットから出した薄いグレーのハンカチで私の目元の涙を拭った。
「どうして泣いてるの?」
「え、あ、」
泣いてるところを見られたと自覚すると、少しは収まっていたはずの涙の量がまた増えてボロボロ零れ落ちてくる。
最原くんは心配そうに見つめているけど、説明なんて今の私が出来るわけもなく、ただ嗚咽を漏らしながら泣くだけだった。
そんな私を見た最原くんは、
「ここだと人が通るかも知れないから、人目のつかない所に行こう。僕で良ければ話を聞かせて欲しい」
と言って、優しく手を引いてくれた。それが余計に物悲しさを強調してさらに涙が溢れる。校舎裏につくまでの間、最原くんは一言も喋らなかった。最原くんの優しさが今の傷ついた私には痛くて優しくて、それが心に染み入った。
その反面、好きだと言ってくれた男の子の思いやりを利用する形で縋った自分がみっともなくて卑怯で…そんなことを考えると鼻の奥がじんじんして、涙だけでなく鼻も止まらなくなりそうだった。……でも、本当にみっともないけど、1人にはなりたくない。
今ここで一人になったらきっと私にはもう何も残らない。超高校級の肩書も、一個人としての名字名前としても。
今まで気付いていなかった嫌な真実が、私に牙を向いて襲いかかってきている。
逃げたい。そんな事実は私は欲しくない……そんな最低なことを考えながら、グズグズ泣いている私の背中を、最原くんは優しく摩ってくれる。
「大丈夫だよ、名字さん。ゆっくりでいいから」
「っうん、ありがとう……」
少しずつ息を整えた私は、先程の小吉とのやり取りを最原くんにかなり掻い摘んで話した。喧嘩の原因のこととかはうっすらとぼかして。