足りない歩幅
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからまた少し経って……この前と同じように秘密子ちゃんを泣かせて、転子ちゃんから逃げてきた小吉は私に向かって突然言った。
「まーでも、わざわざ自分を変えてまで欲しい子じゃないからなー。」
「……突然ドライだね」
過去にもこうやって突然ドライになることが結構あった。
好きなことは好きなんだろうけどその熱が一瞬だけ極端に引いてしまって、こういう事を言い出すのだ。悪くいえば飽き性。
しかしまたしばらくすればいつもの小吉に戻るだろうからあまり心配はしていない。
今回もあまりに秘密子ちゃんの脈がなくて落ち込んでるだけなのだ。
「だって今まで俺って総統として生きてきたでしょー?それを擲っちゃってまで欲しい訳じゃないんだよねー、良く良く考えたらさ」
「総統の小吉も普通の小吉も全部小吉なんだから好きにしなよ。」
「何そのいかにもイイコちゃんの100点満点な回答ー!つまんないよー!」
プリプリカワイコぶって怒る小吉に「はいはい」と言えばまた「はいは1回ってお母さんに教わったでしょ!」と怒られる。
けれども次の瞬間にいつもの胡散臭くて、可愛い(自称)笑顔に元通り。
これだけ短時間にコロコロ表情や態度を変えられると普通の人なら情緒不安定なのか不安になるが、私からしたら本当にいつものことだ。
ただじっと見つめると小吉はむうと口を尖らせて「なにか言ってよ」と言った。
何を言えばいいかわからず少し考えたが……やっぱりどうしてもさっきのお説教のような事しか浮かばず、言おうか迷った。
なにせ今はドライモンスター小吉な訳だし、言ってこれから二人が上手くいく保証もない。
存外好きな子を構い倒したい小吉からすれば苦行であるように思えるしで、言葉に詰まる。
もちろんなにか考え込んでいる私を無視するような奴でもないし、悩みがあるなら話してよ!強請るネタにするから!ぐらいの気概でいる小吉がそわそわとし出すのはしょうがないことだった。
………やっぱり嘘をつけば後がめんどくさい。素直に言うことにした。
「…………あのさ、」
「なになに?ついに名前にも春が来た?」
「来てないよ」
「うわ寂し~い!」
「やかましい。…………押してダメなら引いてみれば?」
急なアドバイスに途端に目を丸くする小吉は呆れたようにため息を吐いた。何を言おうとしてるのか分かるから私も小吉をじっと見つめる。
「俺が好きな子を首を絞めてでも振り向かせたい派なの忘れたの?」
「いや忘れてないけど」
「じゃあなんでそんな事言うんだよ!全く!名前は使えないな!」
「うるさいな。だって今の小吉絶対嫌われてるじゃん。」
「ぐっ!ひどいよ……気にしてるのに……」
「あーそれは本当っぽいね。だったら少しぐらい優しくするか一旦放置するかのどっちかにしないと本当にマジで嫌われるよ、タダでさえあんなセコム付けちゃってんのに」
「そうやって俺のこと虐めて楽しい!?」
「うん」
「くそっ!性格悪っ!」
「どの口が言ってんの」
一通り言い争った所で、小吉はまたもや不機嫌そうに口を閉ざした。
自分が他人の傷口を踏むのは大好きなくせに、他人に踏み込まれるのは大嫌いだからしょうがない事なのだけど、どれが本心でなにが嘘なのか、多分もう恋愛のことは自分でも分かってないんだろうな。
だからこそ、臆病に嘘でまわりを塗り固めようとする。好きだけど、それはからかうことがね!みたいな、優しい嘘。それは、自分にも他人にも優しいものだから。
けれども、小吉は「距離かぁ……うーん」と真剣に悩み始めたようだった。小吉なりに自分の行動に思う所があるのかもしれない。
「あーぁ、どーしよっかなぁ」と極めて深刻そうに言う小吉から目線を外して空を仰いだ。今日はいつもより日差しが暖かく感じる。もうすぐ春が来る。
けれどこれで小吉が秘密子ちゃんと上手く行けば、私はもう小吉の隣にはいられないんだと改めて自覚してきた。
何せ双子双子と言って一緒にいても、血が繋がってるわけじゃない。ただの幼馴染。赤の他人。所詮たまたま住んでた家が近かっただけの人間なんだから。
生まれてこのかた小吉と一緒にいる訳だけど、男女である以上、いつか歩く場所が変わって来ると思っていた。
フィクションでは幼馴染の恋を複雑な心境を抱えながら応援しているキャラクターは多い。みんな『大切だから幸せになって欲しい』と思って応援するのだ。
もちろん一緒にいられなくなっても悲しみはしても恨みはしない。
一緒に歩いてた場所が少し変わるだけ。幼馴染の好きな人に隣の道を譲るだけ。きっと私も……そういうことになるんだろうな。
なんて、二人して色々考え事をして突っ立っていると、後ろから誰かが歩いてくる音がする。
しまった、廊下のド真ん中で固まってしまった。邪魔になるから小吉の手を引こうと手を伸ばす。パッと振り払われた手が少し、痛い。お互いの時が再び止まった。
驚いて目を丸くする私、同じく目を丸くする小吉。
そんなことをしてる間にもどんどん近くなる足音。手の痛みは一瞬だったのにずっと、ずっと痛い気がする。
それにこの空気感も、痛い。
「あれ、二人とも……どうしたの?」
声にあわせて振り返れば、最原くんの不思議そうな視線とかち合った。
弾かれたように小吉が最原くんの腕にしがみつく。
「ねぇ最原ちゃん!聞いてよ!名前が俺のことを虐めるんだ!」
「えぇ?」
まるでさっきのことがなかった様に振る舞うものだからこちらも同じように対応することにした。
「……人聞き悪いなぁ。そもそも小吉が秘密子ちゃん虐めたからお説教してるんだよ」
「ねっ?ねっ?俺虐められてるよね?」
「えっと……」
「ほらほら最原くんを困らせないでー。」
突然の展開に困惑した表情ながらも小吉を引き剥がさない最原くんを挟んで口論する。
「まーでも、わざわざ自分を変えてまで欲しい子じゃないからなー。」
「……突然ドライだね」
過去にもこうやって突然ドライになることが結構あった。
好きなことは好きなんだろうけどその熱が一瞬だけ極端に引いてしまって、こういう事を言い出すのだ。悪くいえば飽き性。
しかしまたしばらくすればいつもの小吉に戻るだろうからあまり心配はしていない。
今回もあまりに秘密子ちゃんの脈がなくて落ち込んでるだけなのだ。
「だって今まで俺って総統として生きてきたでしょー?それを擲っちゃってまで欲しい訳じゃないんだよねー、良く良く考えたらさ」
「総統の小吉も普通の小吉も全部小吉なんだから好きにしなよ。」
「何そのいかにもイイコちゃんの100点満点な回答ー!つまんないよー!」
プリプリカワイコぶって怒る小吉に「はいはい」と言えばまた「はいは1回ってお母さんに教わったでしょ!」と怒られる。
けれども次の瞬間にいつもの胡散臭くて、可愛い(自称)笑顔に元通り。
これだけ短時間にコロコロ表情や態度を変えられると普通の人なら情緒不安定なのか不安になるが、私からしたら本当にいつものことだ。
ただじっと見つめると小吉はむうと口を尖らせて「なにか言ってよ」と言った。
何を言えばいいかわからず少し考えたが……やっぱりどうしてもさっきのお説教のような事しか浮かばず、言おうか迷った。
なにせ今はドライモンスター小吉な訳だし、言ってこれから二人が上手くいく保証もない。
存外好きな子を構い倒したい小吉からすれば苦行であるように思えるしで、言葉に詰まる。
もちろんなにか考え込んでいる私を無視するような奴でもないし、悩みがあるなら話してよ!強請るネタにするから!ぐらいの気概でいる小吉がそわそわとし出すのはしょうがないことだった。
………やっぱり嘘をつけば後がめんどくさい。素直に言うことにした。
「…………あのさ、」
「なになに?ついに名前にも春が来た?」
「来てないよ」
「うわ寂し~い!」
「やかましい。…………押してダメなら引いてみれば?」
急なアドバイスに途端に目を丸くする小吉は呆れたようにため息を吐いた。何を言おうとしてるのか分かるから私も小吉をじっと見つめる。
「俺が好きな子を首を絞めてでも振り向かせたい派なの忘れたの?」
「いや忘れてないけど」
「じゃあなんでそんな事言うんだよ!全く!名前は使えないな!」
「うるさいな。だって今の小吉絶対嫌われてるじゃん。」
「ぐっ!ひどいよ……気にしてるのに……」
「あーそれは本当っぽいね。だったら少しぐらい優しくするか一旦放置するかのどっちかにしないと本当にマジで嫌われるよ、タダでさえあんなセコム付けちゃってんのに」
「そうやって俺のこと虐めて楽しい!?」
「うん」
「くそっ!性格悪っ!」
「どの口が言ってんの」
一通り言い争った所で、小吉はまたもや不機嫌そうに口を閉ざした。
自分が他人の傷口を踏むのは大好きなくせに、他人に踏み込まれるのは大嫌いだからしょうがない事なのだけど、どれが本心でなにが嘘なのか、多分もう恋愛のことは自分でも分かってないんだろうな。
だからこそ、臆病に嘘でまわりを塗り固めようとする。好きだけど、それはからかうことがね!みたいな、優しい嘘。それは、自分にも他人にも優しいものだから。
けれども、小吉は「距離かぁ……うーん」と真剣に悩み始めたようだった。小吉なりに自分の行動に思う所があるのかもしれない。
「あーぁ、どーしよっかなぁ」と極めて深刻そうに言う小吉から目線を外して空を仰いだ。今日はいつもより日差しが暖かく感じる。もうすぐ春が来る。
けれどこれで小吉が秘密子ちゃんと上手く行けば、私はもう小吉の隣にはいられないんだと改めて自覚してきた。
何せ双子双子と言って一緒にいても、血が繋がってるわけじゃない。ただの幼馴染。赤の他人。所詮たまたま住んでた家が近かっただけの人間なんだから。
生まれてこのかた小吉と一緒にいる訳だけど、男女である以上、いつか歩く場所が変わって来ると思っていた。
フィクションでは幼馴染の恋を複雑な心境を抱えながら応援しているキャラクターは多い。みんな『大切だから幸せになって欲しい』と思って応援するのだ。
もちろん一緒にいられなくなっても悲しみはしても恨みはしない。
一緒に歩いてた場所が少し変わるだけ。幼馴染の好きな人に隣の道を譲るだけ。きっと私も……そういうことになるんだろうな。
なんて、二人して色々考え事をして突っ立っていると、後ろから誰かが歩いてくる音がする。
しまった、廊下のド真ん中で固まってしまった。邪魔になるから小吉の手を引こうと手を伸ばす。パッと振り払われた手が少し、痛い。お互いの時が再び止まった。
驚いて目を丸くする私、同じく目を丸くする小吉。
そんなことをしてる間にもどんどん近くなる足音。手の痛みは一瞬だったのにずっと、ずっと痛い気がする。
それにこの空気感も、痛い。
「あれ、二人とも……どうしたの?」
声にあわせて振り返れば、最原くんの不思議そうな視線とかち合った。
弾かれたように小吉が最原くんの腕にしがみつく。
「ねぇ最原ちゃん!聞いてよ!名前が俺のことを虐めるんだ!」
「えぇ?」
まるでさっきのことがなかった様に振る舞うものだからこちらも同じように対応することにした。
「……人聞き悪いなぁ。そもそも小吉が秘密子ちゃん虐めたからお説教してるんだよ」
「ねっ?ねっ?俺虐められてるよね?」
「えっと……」
「ほらほら最原くんを困らせないでー。」
突然の展開に困惑した表情ながらも小吉を引き剥がさない最原くんを挟んで口論する。