僕らの愛は恋ではなかった
名前
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幼い頃からずっと一緒にいた。
たまたま新生児室のベッドが隣で、病室が隣同士だった親も授乳室で顔を合わせるうちに仲良くなった。
さらに家が近所だったことで、幼馴染と言うポジションに落ち着いた事は、それこそ月並みな表現かもしれないけど、前世でも一緒だったんだと思っていた。
一緒にいて落ち着くし、変に気を使う事もない。気心知れた仲ってやつ。
ただ、いつからか名前の言動が無意識的にオレを優先していることに気がついてしまった。
小さな頃はくだらない喧嘩も、恥ずかしくなるような褒め合いも沢山したのに。
それが無くなってしまった事に気づいたのは、オレの記憶が正しければ思春期を過ぎる少し前ぐらいからだった。
小さな頃から人に構われるのも、からかうのも好きで、オレのことをすごく好きになる奴もいれば反対に大嫌いになる奴も沢山いた。
それでも両親と名字家だけは絶対嫌わないでいてくれたし、特に名前にはどんなに嘘をついても嫌うどころか慣れたもんだと「また嘘?」と言って笑う。
「うん、嘘だよ!」
「小吉は嘘をつくのが好きだね」
「好きじゃないよ!」
「それも嘘だね?」
「うん、嘘だよ!でも好きでもないよ!」
「知ってるよ」
別に特別嘘が好きだった訳では無い。ただ、目的を遂行するために嘘は必要なことだっただけだ。
そもそも、この世界のどこかしこに嘘は散らばっている。
嘘をつかない人間なんていない。大なり小なり、なにかしら嘘をついて生きている。
多くの人間は狡いことに嘘をついた事を周りに知られないように嘘をつく。
…まあそれが普通のことだからしょうがないのだけど、オレからしたら美点も糞もない。
嘘をつくならそれ相応の態度ってものがある。
嘘をつく事は他人の信用を裏切る行為な訳で、なに平然と信用を裏切っておきながら外面を良くしようとするのか、オレには到底理解出来なかった。
裏切るのなら最初っから裏切っておけばいい。それで信用されるなら儲けもんだし、オレは最初っから『嘘つきだ』と言っているから、信用するか否かはそれは個人の勝手になる。
オレの真実と言う真実は『嘘つきだ』という言葉だけだから、大体の人間はオレの真実を嘘だと思って食ってかかる。
ま、こればっかりは面倒なことが多いけど、それはしょうがない。何かを手に入れるなら何かを捨てなければいけないから。
人をからかって愉快に遊ぶのには嘘が一番必要で、そこに多くの人間からの無駄な信頼はいらない。
そんなこんなでオレは嘘をつき始めた。
その頃も側にいた名前は特別咎めることもなく、「小吉の好きなようにしたらいいと思うよ」とだけ言った。
いいこちゃんな回答に笑いながら「つまらない言葉だね!」と言いながら、なんだかあの頃の言い争った思い出が脳裏に浮かんできて少しばかり寂しくなった。
大人になってきたと言えばそうなのかも知れないが、オレはあの頃の、素直になんでも言い合えても変に拗れたりしない関係が好きだったのだ。
もうここまで来るとなんだかただ自分1人だけが子供でしか無いんだと思った。
…名前は俺を置いてどんどん大人になっていく。
大人にならないで。ずっと側にいて遊んでいようよ。…きっとソレを伝えたところで笑って「何の話?」って返されるんだろうな。
帰らなければならない。姉だから、大事なものを守るために大人になるのよ、と言ったウェンディを現実へ送ったピーターパンはこんな気持ちだったのだろうか。
オレから名前が離れることも、名前から俺が離れることも無いと思っていた。
けど、そうだ、思い出した。記憶が正しければ、と言ったけど、正しかった。そう、あれは中学に上がった頃の話だ。
「オレ、彼女出来た」
「……へー、おめでとう。」
オレには端的に言ってしまえば『特別な存在』が出来たのだが、良く良く考えたらその頃から名前は俺に思ったことを言わなくなったように思える。
彼女が出来たことにより一緒にいる時間は少しばかり減ったし、
「彼女さんが嫌がるかもしれないでしょ」と言って名前はあまりオレと巫山戯てくれなくなり、彼女だったが特別好きでもない女は「私と一緒にいるのになんであの子の事ばかり話すの?」とうるさくてすぐ別れてしまった。
別にオレは名前のこと女として見ていないし、反対に名前も俺のことを男としては見ていない。
ただの幼馴染、唯一のオレの半身。それぐらいしか思っていなかったのに、それを『彼女』は全く以て理解出来なかったのだ。ちゃんちゃらおかしい話だ。
こんな事も理解出来ない奴がオレの心の奥底にある嘘の美徳も理解出来るはずもなく、「嘘をついている小吉も好き」と言っていた奴が次第に「私にだけは嘘をつかなくてもいい」だとか「どうして嘘ばかりつくの?」とか言い出してさらに面倒くさくなった。
オレがただ嘘をしか言えない天邪鬼だと思ってたのかなんなのかは知らないけど、見当違いもいい所だった。
「もうウザイから別れよう。あ、これは嘘じゃないよ!」と言えば怒り狂った女にビンタをされた。
避けようと思えば避けられたけど、なんか、ケジメ?っていうのかな。ま、普通にメチャクチャ痛いし、引っ叩かれたの後悔してるけどさ。
嘘は嫌だって言うから、ちゃんと本心を教えてあげたのに。「……もういい?」と一言言えば大した事ない罵詈雑言が飛んできたけど、なんだってよかった。
頬を冷やすために自宅に戻って、洗面台で鏡の自分とこんにちは。
はあ、結構見事に真っ赤な紅葉が1枚くっきりと浮かんでいたのみて笑ってしまった。
あの女、つまんないけど人の顔面に手形をキレイに残せるイミワカンナイ女だったな。と独り言ちれば、ふと名前の顔が思い浮かんだ。なんだか無性に、あの頃に戻りたくなった。
でもこれで戻れる。あの女とは全部終わったのだ。きっと名前に伝えれば笑ってこれまで通り過ごせるはず。そんなこと思えば頬は熱くてヒリヒリ痛むけど、胸は軽いし、なんなら足取りも軽かった。
居ても立っても居られなくて、その顔のまま名前の家に行けば、彼女が出来てからは締め出されていたのに、俺の顔の紅葉を見た瞬間に固まったので、その隙にあっさりと玄関へ滑りこんだ。
はっとした名前が帰りを促そうとする前に俺は彼女とどうなったかを簡潔に告げた。
「別れた」
「……は?え?……好きじゃなかったの?」
「いや、ただ面白そうかなと思って付き合ってたけど……うるさくて別れちゃった。対して面白くもなかったし」
「ハチャメチャにクズじゃん……」
そう言った名前はちゃんと本心から言っていたから、なんだかオレは久しぶりに本音が聞けて嬉しくなって、あの頃に戻った様な錯覚をしてしまった。もちろん罵倒されるのが好きなのではなくて、名前の真実の言葉が好きなだけだ。久しぶりに聞いた本音が罵倒と言うのが残念極まりなかったがそれでもやっぱり、さ。どこか嬉しかったんだよなあ。
「まぁね~!オレのお眼鏡にかなう子いないかな~?」
「小吉って面倒臭いから一生独身そう」
「ちょっと」
……こういった事ならちゃんと素直に言ってくれるのかと思って、オレは彼女をつくるのを止められなかった。
たまたま新生児室のベッドが隣で、病室が隣同士だった親も授乳室で顔を合わせるうちに仲良くなった。
さらに家が近所だったことで、幼馴染と言うポジションに落ち着いた事は、それこそ月並みな表現かもしれないけど、前世でも一緒だったんだと思っていた。
一緒にいて落ち着くし、変に気を使う事もない。気心知れた仲ってやつ。
ただ、いつからか名前の言動が無意識的にオレを優先していることに気がついてしまった。
小さな頃はくだらない喧嘩も、恥ずかしくなるような褒め合いも沢山したのに。
それが無くなってしまった事に気づいたのは、オレの記憶が正しければ思春期を過ぎる少し前ぐらいからだった。
小さな頃から人に構われるのも、からかうのも好きで、オレのことをすごく好きになる奴もいれば反対に大嫌いになる奴も沢山いた。
それでも両親と名字家だけは絶対嫌わないでいてくれたし、特に名前にはどんなに嘘をついても嫌うどころか慣れたもんだと「また嘘?」と言って笑う。
「うん、嘘だよ!」
「小吉は嘘をつくのが好きだね」
「好きじゃないよ!」
「それも嘘だね?」
「うん、嘘だよ!でも好きでもないよ!」
「知ってるよ」
別に特別嘘が好きだった訳では無い。ただ、目的を遂行するために嘘は必要なことだっただけだ。
そもそも、この世界のどこかしこに嘘は散らばっている。
嘘をつかない人間なんていない。大なり小なり、なにかしら嘘をついて生きている。
多くの人間は狡いことに嘘をついた事を周りに知られないように嘘をつく。
…まあそれが普通のことだからしょうがないのだけど、オレからしたら美点も糞もない。
嘘をつくならそれ相応の態度ってものがある。
嘘をつく事は他人の信用を裏切る行為な訳で、なに平然と信用を裏切っておきながら外面を良くしようとするのか、オレには到底理解出来なかった。
裏切るのなら最初っから裏切っておけばいい。それで信用されるなら儲けもんだし、オレは最初っから『嘘つきだ』と言っているから、信用するか否かはそれは個人の勝手になる。
オレの真実と言う真実は『嘘つきだ』という言葉だけだから、大体の人間はオレの真実を嘘だと思って食ってかかる。
ま、こればっかりは面倒なことが多いけど、それはしょうがない。何かを手に入れるなら何かを捨てなければいけないから。
人をからかって愉快に遊ぶのには嘘が一番必要で、そこに多くの人間からの無駄な信頼はいらない。
そんなこんなでオレは嘘をつき始めた。
その頃も側にいた名前は特別咎めることもなく、「小吉の好きなようにしたらいいと思うよ」とだけ言った。
いいこちゃんな回答に笑いながら「つまらない言葉だね!」と言いながら、なんだかあの頃の言い争った思い出が脳裏に浮かんできて少しばかり寂しくなった。
大人になってきたと言えばそうなのかも知れないが、オレはあの頃の、素直になんでも言い合えても変に拗れたりしない関係が好きだったのだ。
もうここまで来るとなんだかただ自分1人だけが子供でしか無いんだと思った。
…名前は俺を置いてどんどん大人になっていく。
大人にならないで。ずっと側にいて遊んでいようよ。…きっとソレを伝えたところで笑って「何の話?」って返されるんだろうな。
帰らなければならない。姉だから、大事なものを守るために大人になるのよ、と言ったウェンディを現実へ送ったピーターパンはこんな気持ちだったのだろうか。
オレから名前が離れることも、名前から俺が離れることも無いと思っていた。
けど、そうだ、思い出した。記憶が正しければ、と言ったけど、正しかった。そう、あれは中学に上がった頃の話だ。
「オレ、彼女出来た」
「……へー、おめでとう。」
オレには端的に言ってしまえば『特別な存在』が出来たのだが、良く良く考えたらその頃から名前は俺に思ったことを言わなくなったように思える。
彼女が出来たことにより一緒にいる時間は少しばかり減ったし、
「彼女さんが嫌がるかもしれないでしょ」と言って名前はあまりオレと巫山戯てくれなくなり、彼女だったが特別好きでもない女は「私と一緒にいるのになんであの子の事ばかり話すの?」とうるさくてすぐ別れてしまった。
別にオレは名前のこと女として見ていないし、反対に名前も俺のことを男としては見ていない。
ただの幼馴染、唯一のオレの半身。それぐらいしか思っていなかったのに、それを『彼女』は全く以て理解出来なかったのだ。ちゃんちゃらおかしい話だ。
こんな事も理解出来ない奴がオレの心の奥底にある嘘の美徳も理解出来るはずもなく、「嘘をついている小吉も好き」と言っていた奴が次第に「私にだけは嘘をつかなくてもいい」だとか「どうして嘘ばかりつくの?」とか言い出してさらに面倒くさくなった。
オレがただ嘘をしか言えない天邪鬼だと思ってたのかなんなのかは知らないけど、見当違いもいい所だった。
「もうウザイから別れよう。あ、これは嘘じゃないよ!」と言えば怒り狂った女にビンタをされた。
避けようと思えば避けられたけど、なんか、ケジメ?っていうのかな。ま、普通にメチャクチャ痛いし、引っ叩かれたの後悔してるけどさ。
嘘は嫌だって言うから、ちゃんと本心を教えてあげたのに。「……もういい?」と一言言えば大した事ない罵詈雑言が飛んできたけど、なんだってよかった。
頬を冷やすために自宅に戻って、洗面台で鏡の自分とこんにちは。
はあ、結構見事に真っ赤な紅葉が1枚くっきりと浮かんでいたのみて笑ってしまった。
あの女、つまんないけど人の顔面に手形をキレイに残せるイミワカンナイ女だったな。と独り言ちれば、ふと名前の顔が思い浮かんだ。なんだか無性に、あの頃に戻りたくなった。
でもこれで戻れる。あの女とは全部終わったのだ。きっと名前に伝えれば笑ってこれまで通り過ごせるはず。そんなこと思えば頬は熱くてヒリヒリ痛むけど、胸は軽いし、なんなら足取りも軽かった。
居ても立っても居られなくて、その顔のまま名前の家に行けば、彼女が出来てからは締め出されていたのに、俺の顔の紅葉を見た瞬間に固まったので、その隙にあっさりと玄関へ滑りこんだ。
はっとした名前が帰りを促そうとする前に俺は彼女とどうなったかを簡潔に告げた。
「別れた」
「……は?え?……好きじゃなかったの?」
「いや、ただ面白そうかなと思って付き合ってたけど……うるさくて別れちゃった。対して面白くもなかったし」
「ハチャメチャにクズじゃん……」
そう言った名前はちゃんと本心から言っていたから、なんだかオレは久しぶりに本音が聞けて嬉しくなって、あの頃に戻った様な錯覚をしてしまった。もちろん罵倒されるのが好きなのではなくて、名前の真実の言葉が好きなだけだ。久しぶりに聞いた本音が罵倒と言うのが残念極まりなかったがそれでもやっぱり、さ。どこか嬉しかったんだよなあ。
「まぁね~!オレのお眼鏡にかなう子いないかな~?」
「小吉って面倒臭いから一生独身そう」
「ちょっと」
……こういった事ならちゃんと素直に言ってくれるのかと思って、オレは彼女をつくるのを止められなかった。